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アングル:黒人向け美容業界にトランプ関税の打撃、ウィッグやエクステの大半は中国・ベトナム製

2025年08月24日(日)07時57分

 トランプ大統領が中国やベトナムに対し一連の関税を課すと発表。黒人女性の使用頻度が高いブラックビューティー製品の大半はこうした国々で製造されているため、安価だったウィッグのほか、編み込み式エクステに用いられる付け毛や接着剤の価格が急騰した。写真はフィラデルフィアで低刺激性の編み込み用ヘアを販売する会社のオーナー、カディジャ・ドッソさん(30)。6月28日撮影(2025年 ロイター/Hannah Beier)

Arriana McLymore Jayla Whitfield-Anderson Julio-Cesar Chavez

[フィラデルフィア/米ジョージア州スマーナ 19日 ロイター] - 米ジョージア州スマーナでヘアサロンを経営するダジア・ブラックシアー=キャロウェイさん(34)はこの夏のはじめ、常連客が以前ほど頻繁に来なくなっていることに気づき始めた。

店にはスタイリストが2人在籍し、自然な髪型(50ドル)からテープで装着するエクステンション(745ドル)まで数十種類のサービスを提供。編み込みに人毛を縫い付けるエクステ(254ドル)などが人気だ。

ところが、トランプ大統領が中国やベトナムに対し一連の関税を課すと発表。黒人女性の使用頻度が高いブラックビューティー製品の大半はこうした国々で製造されているため、安価だったウィッグのほか、編み込み式エクステに用いられる付け毛や接着剤の価格が急騰した。

ベトナムから輸入されるエクステ用ヘア1パックの価格は5月以降、190ドルから290ドルに上昇した。ダジアさんの地元のヘアケア用品店では、中国製エクステ用接着剤の価格が1本8ドルから14.99ドルに値上がりした。

「あらゆる面で影響を受けている」とダジアさんは話す。「上昇分はサロンが吸収するか、サービス料に転嫁するしかない。料金を値上げすれば、顧客の予算や懐具合にも影響する」

サービス料への転嫁を避けるため、ダジアさんは顧客に自分の髪を持ち込むよう求めている。予約サイトによると現在、彼女のサロンでは自分の髪を持ち込めば140ドル、持ち込まなければ場合は400ドルでサービスを提供している。

関税率が変わると卸売業者からの出荷が遅れるため、商品の入手にも苦労がつきまとう。

フィラデルフィアで低刺激性の編み込み用ヘアを販売する会社のオーナー、カディジャ・ドッソさん(30)も中国からの出荷遅延による影響を受けている。

トランプ氏が145%の対中追加関税を発表して間もない6月、カディジャさんは中国製編み込み用ヘア5万ドル相当を航空貨物で入手するまでに1カ月以上待たなければならなかった。

「税関を通すには、商品の具体的な内容、つまり正確な素材、使用目的を詳細に申告する必要がある」とカディジャさんは話した。「問題の一因は、これまで何年も使ってきた説明文が十分に具体的ではなかったことだ」

<コスト上昇>

米シンクタンク、ブルッキングス研究所のシニアフェローであるアンドレ・ペリー氏の見解では、トランプ関税はダジアさんやドッソさんら黒人経営者へ特に重大な影響を与えている。

ペリー氏によると「黒人経営者は、起業の際の資産が少ないことが多い」という。富の格差のせいで、特に消費財やヘアケアサービスのような利益率の低い事業に携わる黒人起業家は、関税に利益を圧迫され、経済的に非常に不安定な立場に置かれることになる。

ジョージア州立大学のサプライチェーン・オペレーション管理助教、シナ・ゴララ氏の見方では、関税によるコスト上昇は法人税のようなものだ。「外国の製造業者がその負担を被ることもあり得るが、大半の場合、国内の購入者や消費者にもかなりの影響が及ぶ」

カリフォルニア州の美容関連用品店創業者のダイアン・バレンタインさん(55)は、中国に145%関税が課されてからすぐ、その影響を初めて実感した。ロサンゼルス港で2万6000パックの編み込み用ヘアを入手するため、30万ドルの支払いを迫られた。

「この段階でこれほどの損失を被るなんて壊滅的だ」とダイアンさんは嘆いた。

以来、編み込み用ヘアと紐で結ぶタイプのポニーテール用エクステの価格を20%値上げ。従業員4人を解雇し、穴埋めのため州内2店舗で1日16時間働いている。

店で扱う商品のおよそ50%は中国製であり、人工ウィッグやプラスチック製カーラー、ゴムバンド、くしやブラシなどの価格は上昇傾向にあるとダイアンさんは述べた。

「自宅でヘアを整える女性が増え、美容熱が高まり、客足が伸びるかもしれないと思っていた」と彼女は述べた。「でも今のところ来店者は減る一方で、常連客が来る頻度も減っている」

<苦境に立つサロン>

美容関連商品の売り上げは景気低迷期でも安定していることが多いものの、美容サービスは「必要不可欠ではない支出」と見なされるというのが、市場調査会社IBISワールドのシニアアナリスト、マーリー・ブロッカー氏の分析だ。

「これらの輸入品への関税は、海外の製造業者から直接購入する場合でも、米国内の卸売業者から購入する場合でも、サービス提供者のコストを直接押し上げる」と同氏は言う。

ニールセンIQの調査によると2022年、米国の黒人消費者によるヘアケア製品への支出はおよそ22億9000万ドルだった。

だが価格上昇により、一部の黒人女性はサロンに行く回数を減らしている。ノースカロライナ州ローリーに住むデイラ・フライさん(27)は通常、1年に少なくとも5回はヘアサロンの予約を入れるが、今年はこれまで1回しか行っていない。

「ここ数年で何でもかんでも高くなっているので、最近は縫い付け式エクステよりも編み込みを選んだり、自分の髪を活かすことが増えた」とデイラさん。英食品・家庭用品大手ユニリーバの「シアモイスチャー」や、米日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の「パンテーン」など、ナチュラルヘア用製品の価格上昇にも気づいている。

顧客の訪問回数の減少は、サロンやヘアケア用品店に影響を与えている。

ディオンヌ・マクスウェルさんは今年初めまで、ジョージア州ダラスの小さなヘアケア用品店でウィッグ、編み込み用ヘア、シャンプーやコンディショナーを販売していたが、来店者が減少したため5月に閉店。自宅に事業を移転した。

現在ウーバーイーツやティックトック・ショップ、ウォルマートからの注文に頼って事業を維持しているが、そうした売り上げも大きく落ち込んでいるという。

「広告に使う資金がない。十分な収益が入ってこないからだ」とディオンヌさんは述べた。

卸売業者との価格交渉も頭痛の種だ。以前は1回の注文で30パックずつ購入できていたが、現在は110パックの大量まとめ買いを要求される。

「この2カ月、ほとんど手元資金で請求金額を支払ってきた。入ってくるお金はほとんどなかったから」とディオンヌさんは打ち明けた。

ロイター
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