コラム

大統領が移民の国の歴史を知らないの?(パックン)

2018年01月31日(水)10時50分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

(C) 2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE

<自由の女神が見守るニューヨーク湾のエリス島からは1200万人、現在のアメリカ人の4割の祖先が移民として入国してきた......そしてあの大統領のおじいさんも>

ニューヨーク湾にそびえ立つ自由の女神。マンハッタン島の最南端から、ちょっと遠くて意外と小さいけどきれいに見える。ただ不思議に思えるのは、なぜか顔はブルックリンのほうに向いているということ。

その理由は、女神の台座に刻まれた女流詩人エマ・ラザラスの詩を見れば分かる。それは、Give me your tired, your poor, your huddled masses(疲れ果て、貧しく、身を寄せ合う群衆を私に送りたまえ)と、世界からの移民を招き入れる内容。悲惨な状態で自由を求めてアメリカにやって来る人のために、女神が玄関口を照らしているという。

だから、彼女の顔はマンハッタンにも、アメリカ本土にも向いていない。正確に言うとブルックリンにも向いていない。太平洋、そして全世界の哀れな人々に目をやっている。まあ、ブルックリンにもそんな人々はいっぱいいるけど。

移民を歓迎するこの文言は理想で終わらずに、実質を伴うものだった。同じニューヨーク湾に浮かぶエリス島にはかつて移民局があった。19世紀末から60年以上の間、1200万人以上の移民がそこから入国し、彼らの子孫は今のアメリカ人のおよそ4割に上るという。アメリカは自由の国であって、移民の国でもある。女神は両方のシンボルなのだ。

この詩と歴史を知らないアメリカ人はいない。あっ......1人いたようだ。

ドナルド・トランプ大統領は、ラザラスが詩の中で哀れな移民を言い表した wretched refuse を、shithole countries(くその穴の国々)という下品極まりない表現で片付けている。彼は先日、移民に関する会議中にハイチやアフリカ諸国をこう呼び、一方でノルウェー人(Norwegian)のような移民をもっと受け入れてはどうかと勧めたらしい。

国内外で批判されたが、「国に貢献できる人材を優先し、英語もしゃべれずスキルもない移民を断る合理的な政策だ」と支持者は弁解した。

僕はそんな政策には反対。でも1885年にエリス島から入国し、英語がしゃべれず職業もなかったドイツ系移民の少年がアメリカに悪影響を与えている可能性は認める。それはフリードリヒ・トランプフ。トランプのおじいさんだ。

【ポイント】
SORRY... "WRETCHED REFUSE" SOUNDS LIKE S***HOLE COUNTRIES TO ME!

残念だが......「哀れな人々」はくその穴の国々と、私には聞こえるんだ!

<本誌2018年2月6日号[最新号]掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

戦場の成果、米との和平協議に「前向きな影響」=ロシ

ビジネス

ユーロ圏のインフレ、今後数カ月は2%前後で推移=ラ

ビジネス

中国人民銀、一部銀行の債券投資調査 利益やリスクに

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 5
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story