コラム

トランプ政権内の抵抗勢力は悪か、ヒーローか(パックン)

2018年10月03日(水)09時50分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

(c) 2018 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<NYT紙に寄稿した政権内の抵抗勢力(レジスタンス)は、一部の政策を阻止しても悪の政権の一員としての罪は拭えない>

「私は、トランプ政権内のレジスタンスの一員だ」。ニューヨーク・タイムズ紙に載ったそんなタイトルの寄稿で、匿名のトランプ政権幹部が驚きの事実を明かした。大統領には道徳心がない。指導者としては衝動的で攻撃的、狭量で無力。彼の判断は中途半端、情報不足、無鉄砲などなど。まあ、これには驚かないけどね。

でも、「同じ意見の多くの高官と共に、大統領の政策の一部や悪い習癖を懸命に妨害しようとしている」という。トランプ大統領の周辺に反トランプ勢力がいるというのは初耳だ。

風刺画の吹き出しは、ジャーナリストのボブ・ウッドワードの新刊『恐怖の男 トランプ政権の真実』で記された逸話を指す。韓国との貿易協定からの離脱を命じる書類をトランプが署名する前に、当時の大統領補佐官ゲーリー・コーンが大統領の机から引き抜いたのだ。セーフ!......いや、本当はアウトだろう。

寄稿者は、危険が分からない幼稚な大統領を「大人が見張っているから」と国民に安心を呼び掛けた。でも風刺画の人物はナチスの制服を身にまとい、大統領ではなく「Führer(総統)」の言葉を使っている。「ヒトラーは悪い癖はあるけど、僕らが付いているから大丈夫」と言っているようなものだ。

トランプ政権下では、メキシコ国境で4000人近くの不法移民の子供が親から引き離されている。ハリケーン被災地のプエルトリコで3000人近くが死亡している。火力発電所の規制緩和による大気汚染で、全米で最大1400人が毎年死亡すると推測されている。貿易戦争を始める。富裕層優遇税制で貧困層を苦しめる。同盟国と敵対し独裁者を擁護する。「大人たち」はトランプ坊やを随分遊ばせているようだ。「レジスタンス」は一部の政策を阻止しても、悪の政権の一員としての罪は拭えない。

寄稿者はヒーローを自称するが、反逆者だと言う人もいる。勝手に妨害することは、大統領の権限を奪うことになるからだ。ウッドワードはこの行為を「行政的なクーデター」と呼んでいる。国民に選ばれたのは政府の職員じゃない。彼らが大統領の命令に従わないと民主主義が成り立たない。不本意なのは分かるが、しょうがない。実際に大統領選で一番票を取ったことは間違いない、ヒラリー・クリントンが。......あら?

【ポイント】
I SECRETLY PLUCKED PAPERS OFF THE FÜHRER'S DESK SO HE COULDN'T SIGN THEM!

総統の机から書類をこっそり抜き取っておいた。彼が署名できないように!

REST ASSURED... THERE ARE ADULTS IN THE ROOM!

安心しなさい。大人が見張っているから!

<本誌2018年10月02日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪銃撃、容疑者は「イスラム国」から影響 事件前にフ

ワールド

スーダン、人道危機リストで3年連続ワースト1位 内

ワールド

スマトラ島洪水、活動正常化には数カ月=プラボウォ大

ワールド

米、EUにメタン排出法の適用除外を要求=政府文書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story