コラム

中国のアフリカ巨額支援が国内に生む「犠牲者」

2018年09月26日(水)11時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

(c) 2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<習近平は総額600億ドルの経済援助をアフリカ諸国に約束したが、中国国内の農村部では子供たちが義務教育も満足に受けられないほど地方財政が悪化している>

東京で9月3日に開幕した中国・アフリカ協力フォーラムで、習近平(シー・チンピン)国家主席はアフリカ諸国に600億ドルの経済援助を行うと表明した。

このニュースが世界に流れたのと同じ頃、中国湖南省耒陽(レイヤン)市で起こった「入学事件」の写真が中国のSNSで大量にシェアされた。耒陽市では9年間の義務教育が行われているが、財政難でこの20年間公立学校は増設しておらず、今年5月の地方公務員の給料も払えずニュースになった。中国教育省の基準で、小中学校の1クラスの生徒数は36~45人ぐらいが適切と考えられているが、耒陽市の場合、66人を超える超過密のクラスが740もある。

教育省は今年を超過密クラス撲滅の目標年に設定。耒陽市政府はこれを理由に、強制的に1万人近くの高学年の生徒を私立学校へ転校させた。彼らは公立学校より10倍高い学費を出さなければならない。あまりの理不尽さに保護者たちは怒って市役所前で抗議し、警察と衝突した。

耒陽市の例は中国の地方財政危機の氷山の一角にすぎない。地方政府の深刻な過剰債務は誰もが知っている公然の秘密だ。「中国の地方債務は40億元(653億円)前後。ただし、どの地方政府も債務返済をしたがらず、しかも利子返済ができる能力さえ持っていない」と、中国の専門家は語った。

「600 億ドルってどれくらいか分かる? チベット、青海、新疆、甘粛の4つの省・自治区の一般財政収入の合計より多く、黒龍江、吉林、遼寧の3省の財政収入の合計の80%より多く、湖南省の1年間の一般財政収入額とほぼ同じだ!」。(アフリカへの経済援助の)600億ドルの「明細」について書かれた記事もSNSでたくさんシェアされたが、すぐに削除された。

財政危機で地方の子供たちがきちんと義務教育を受けられず、農村地域では今でもぼろぼろの教室で授業が行われている。それなのに、なぜ政府はこれを無視して、アフリカにそんな大金を送るのか。「人民のためではなく、共産党の政権を固めるためだ。この巨額の経済援助によって、中国政府とアフリカの連携も強まり、国際社会における存在感と発言権も大きくなる」と、中国の自由派学者はこっそり教えてくれた。

【ポイント】
<六百亿美元、中非共同体、大国心态>

それぞれ「600億米ドル、中国アフリカ共同体、大国メンタリティー」

<中国の地方債務問題>
08年のリーマン・ショック後、中国政府は景気テコ入れのため貸し出しを大幅増加。地方政府はその資金で不動産投資を進めたが、膨らんだ債務が負担になっている

<本誌2018年9月25日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中マドリード協議2日目へ、TikTok巡り「合意

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界

ワールド

トランプ氏、首都ワシントンに国家非常事態宣言と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story