コラム

ノームコア「究極の普通」という生き方

2015年07月22日(水)20時00分

新たな自由 孤独にはさよなら fontina-iStockphoto

 最近、あちこちで使われるようになったノームコアというファッション用語がある。このノームコアは、いまから2年前に「ユースモード:自由に関する報告書」という英文のドキュメントで初めて使われた言葉である。

 ドキュメントは、ニューヨークのトレンド予測グループ「K-Hole」が作成した。とはいえ私はいま書いているこの原稿で、ファッションのトレンドについて分析しようとしているのではない。書こうとしているのは、社会の未来だ。このユースモードには、これからの共同体のありかたについての重大な示唆が含まれているからだ。

 ユースモードでは、おおまかに言うと4つの概念が提示されている。まず「デス・オブ・エイジ」。これまでの長い間、年齢を重ねることにはさまざまな社会的な期待がともなっていた。責任が重くなり、成熟することが求められ、そのかわりに老いれば悠々自適の生活を夢みることができた。しかし今や、世代の特徴というのはあまり明確ではなくなってきている。世代の違いよりも、属している文化的なクラスターの違いの方が大きくなってきている。若くても年を重ねていても、同じ文化圏であえば話は合いやすいし、同世代でも違う文化圏に属していると会話はかみあわない。そういう世界で、成熟への期待というのは社会から消滅していく。

 最近は地方都市に行くと、高齢者から思春期の若者まで、同じ「ファッションセンターしまむら」の服を身につけていたりする。はるか昔の1970年代、若者が愛読するコミック雑誌を大人の会社員が読むようになって社会が驚愕したということがあったが、今やそんなの当たり前すぎてなぜ昔の人が驚いたのかさえ理解できない。いまや年配者もスマホでゲームをし、SNSに興じている。これがデス・オブ・エイジ、世代の終焉だ。

■もう、個性的でなくていい

 第2の概念は「マスインディー」。近代は、ひとりひとりの個性を大事にしようという時代だった。集団に埋没するのではなく、自分の個性を打ち出す。自分だけのファッションを身にまとい、自分だけのキャラクターを打ち立て、自分だけの物語をつくる。しかしそんなふうに「他人と違う」ということを際だたせようとしても、それほど大きな違いは生み出せない。しょせんは同じ人間なのだ。違いを求めれば求めるほど、違いそのものがだんだんささやかなものになっていってしまう。

プロフィール

佐々木俊尚

フリージャーナリスト。1961年兵庫県生まれ、毎日新聞社で事件記者を務めた後、月刊アスキー編集部を経てフリーに。ITと社会の相互作用と変容をテーマに執筆・講演活動を展開。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『21世紀の自由論』(NHK出版新書)など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story