コラム

崩壊都市の再生をかけたNY市長選、「ベーシックインカム」か「ガーディアン・エンジェルス」か

2021年02月11日(木)13時15分

民主党候補のヤング氏は大統領選予備選でもBI導入を訴えていた Mike Segar-REUTERS

<コロナ禍によって都市機能が壊滅的な打撃を受けたニューヨーク、その再生をかけた市長選の候補者選びが動き出した>

新型コロナウイルスによる社会的影響ということでは、ニューヨーク市の状況は非常に厳しいものがあります。人口8400万人の都市において、現在までの陽性者が累計で64万7000人(人口比7.7%)、死者2万7856人(人口比0.03%)というのは、今ではアメリカの平均値よりは「まし」な数字となっています。

ですが、都市機能ということでは瀕死の状態が続いています。まず国際観光都市としての機能は停止、そしてミュージカルや演劇、音楽の拠点都市という機能もほぼ停止、そして知的労働がほぼ100%テレワークに移行したアメリカでは、オフィス関連の経済も低迷しています。その結果として、レストラン業界では現時点で全体の50%近くが閉店に追い込まれており、最終的にはコロナ禍前の3分の1が生き残るかどうかという予測もあります。

経済の低迷、雇用の崩壊が進む一方で、治安の悪化が恒常化しています。治安ということでは、まずコロナ禍の第1波が猛威を振るった昨年春には、24時間営業を中止して閉店している夜間の店舗などを狙った侵入盗が増加しました。また、感染拡大防止のために、刑務所から臨時に釈放された受刑者がホームレス化したことも問題となりました。

また夏場以降は、ランダムなターゲットを狙った乱射事件が散発的に起きています。また、乗客の減った地下鉄や郊外鉄道の車内でも、まるで80年代に戻ったかのような治安の悪化が見られます。そんな中で、市内の富裕層の人口は過半数がすでに市外に流出していると言われています。昨年秋にはこうした状況を受けて、ニューヨーク市内で家具の中古市場が異常に活性化するという現象も起こりました。

BI導入を訴えるヤング氏

こうした中で注目されているのが、今年2021年11月に予定されている市長選挙です。2008年に法改正がされ、市長には3選が禁じられたため、現職のビル・デブラシオ市長は退任となり、新人が争うことになります。

民主党、共和党ともに候補者を決定する予備選は6月に予定されています。ですから、最終的な選挙の構図はそれまでに二転三転するかもしれません。そうではあるのですが、現時点では非常に興味深い対立構図が生まれています。

まず民主党では、10名以上が名乗りを上げていますが、その中から一歩抜け出しているのはアンドリュー・ヤング氏です。台湾系でテック関連の企業家であったヤング氏は、「BI(ベーシックインカム)」の導入を主張して、2020年大統領選挙の予備選に出馬、最終的には撤退しましたが、貧困問題解決の切り札としてBIの施行をブレずに説き続けた姿勢は、若者を中心に大きな反響がありました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イラン核問題巡りトランプ氏と協議へ 

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ワールド

ロ、米のカリブ海での行動に懸念表明 ベネズエラ外相

ワールド

ベネズエラ原油輸出減速か、米のタンカー拿捕受け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story