コラム

後味の悪かったワールドシリーズが象徴する米社会の重苦しさ

2020年10月29日(木)13時40分

一部の報道では、試合前日の月曜に行われた検査で、ターナー選手だけが「判定不能」になったことが、火曜の最終戦が始まって2回の時点で判明し、急遽再検査を行ったというのです。そこで、仮に2回の時点でターナー選手に異常があるということが判明していたとしたら、その時点でコミッショナーが「どうしてもこの第6戦で決着させよう」と動いた可能性がある、そんな憶測も出ています。その結果として、具体的には1対0でリードしていたレイズが負けるように「投手交代」を迫ったというのです。

以上の問題ですが、(1)は表沙汰になり批判がされています。(2)については、いずれ正式に発表があるかもしれません。ですが、8回に陽性と判明していたら、濃厚接触者になる選手たちに試合を続行させた責任は問われるので、曖昧になるかもしれません。(3)については、中継を見ていた私には極めて不自然に見えましたが、結局はヤブの中となる可能性が高いと思います。(4)のストーリーはさすがにこれを認めてしまうと、野球の人気やコミッショナーの権威に大きなダメージとなるので、あくまで陰謀説で終わるのではと思われます。

米社会に漂う重苦しさ

それはともかく、大リーグ全体としては、コロナ禍でのイベント開催の難しさを改めて突きつけた格好となりました。背景にあるのは、総額83億ドル(約8700億円)という巨額の債務を、各球団が背負っている問題です。

コミッショナーは、仮に来季も、無観客など変則的な開催になれば多くの球団は破産して、リーグの続行ができなくなるという見通しを述べています。そんな中で、「3勝3敗になれば第7戦は大幅延期となり、シリーズは完全に白けてしまうしコストもかかる、従ってレイズに勝たせるわけにはいかない」という状況が生まれた可能性は否定できません。

いずれにしても、ワールドシリーズは後味の悪い決着となりました。ですが、大騒動になる気配はありません。とりあえず、ターナー選手の行動に関する調査が始まったようですが、試合後の記念撮影に出てきた問題への処分だけで済まされるのはないでしょうか。大きな騒動となればトランプが「だから感染対策など止めてしまえばいいんだ」と吠えそうだということもありますが、アメリカ社会全体に漂うなんともいえない重苦しさが、問題を曖昧にせざるを得ない状況を作り出しているとも言えます。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story