コラム

朝鮮半島問題の不等式に解はあるか?

2018年05月08日(火)18時30分

先月の南北首脳会談で和解への期待はにわかに高まっているが Reuters TV

<北朝鮮を緩衝国家として安定的に維持させるには、経済活動をどこまでオープンにするか、緻密な設計と運用が必要になる>

国際問題には、いろいろなタイプがあります。非常に単純な分け方をするのであれば、「解決すべき問題」と「解決すべきでない問題」があります。また別の分け方をするのであれば、「解決できる問題」と「解決できない問題」もあります。

朝鮮半島の問題は、このどれにも当てはまりません。というのは、まず「解決」ということが「1」か「0(ゼロ)」かという白黒のハッキリしたものではないからです。

その上で、解決しなければ危機になる一方、完全に解決してしまえば似たように危機を招く可能性がある、つまりAという現状は改善しなくてはならないが、Dという完全な解決を求めるのは避けねばならない、そのような性格の問題を抱えていると言えます。

つまり一連の外交交渉の目的は「求める落とし所X」を「完全な解決であるD」にするのではなくて、「現状のAよりはましで全員が受け入れられる最低の改善案B」と、「Dには欠けるが全員が受け入れられる範囲での最善の改善案C」のあいだ、つまり「A<B<C<D」の中の「B<X<C」のゾーンに状態を持って行くことが求められるわけです。

まず、北朝鮮という国をどの程度「開くか?」、つまり経済交流の自由度をどうするかという問題があります。完全に閉じたままでは、経済発展はできませんから、冷戦終結後は準鎖国状態で国際法違反行為などによって外貨を稼いできた「危険な状態」が続きます。一方で完全にオープンにしてしまえば、人や情報が行き交うなかで、ハプニング的な政権崩壊や韓国との「準備不足の統一」が起きる危険があります。

その場合は、韓国には「北朝鮮を統合しつつ先進国の経済に持ち上げるだけの余力はない」一方で、「北朝鮮に国富を投入するために、南の生活水準を落とすことはできない」というジレンマの中で行き詰まる可能性が高いと思われます。

ですから、北朝鮮という緩衝国家を安定的に存続させるような「平和的解決」のためには、「どの程度、国の経済をオープンにするか?」という問題に、緻密な設計と運用が必要になるのです。

人の行き来も、この問題に関係してきます。例えば、拉致被害者、分散家族、人権を侵害された人々は、北朝鮮から自由に出国できるようにすべきです。ですが、誰もが自由に出られるようになって、それこそベルリンの壁が「なし崩し的に崩壊」した事態になっては混乱します。どの程度の行き来にするのか、これは慎重に決定されなくてはなりません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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