コラム

トランプ施政方針演説、依然として見えない政策の中身

2017年03月02日(木)17時15分

就任後初の施政方針演説は「大統領らしい」と好評だった Jim Lo Scalzo-REUTERS

<就任後初の施政方針演説は意外にも好評だったが、オバマケア廃止後の医療保険をどうするか、移民政策をどうするか、依然として政策の具体的な中身は見えてこない>

今週火曜28日の夜、トランプ大統領は就任後初の上下両院議会演説に臨みました。一夜明けたアメリカでの報道は、意外に好評で「大統領らしい」とか「暴言を止めて少し成長した」「分断から和解をというメッセージは良かった」というような評価が見られます。

ただ、演説の内容については、メリハリがなく具体案があまりに乏しかったと思います。演説そのものも、いつもの勢いはなく終始硬さが取れない感じで、特に最後の方は精彩を欠いていました。

具体案が見えないと言いましたが、具体性にかけるスピーチというのは、世界中の政治家によくあるもので、特に珍しくはありません。ですが、トランプ大統領の場合は、本人と周囲の発言にズレがあることが多く、今回の演説も、例えば政権周辺からの発言や大統領の過去の発言と照らし合わせると、一貫性に欠けるものが多いのです。そのために、発言に説得力が感じられません。

まず、気になるのが予算の策定方針です。トランプ大統領は、昨年11月9日未明の大統領選の勝利宣言で、国内インフラ更新へ大規模な投資をすることを言明しています。ところが、今週27日の全国知事会議でのスピーチでは「思い切った軍拡を行う」として軍事費を540億ドル(約6兆円)拡大すると言明、さらに「その他の費用は圧縮する」と語りました。

【参考記事】トランプにブーイングした「白ジャケット」の女性たち

それにもかかわらず、その翌日の議会演説では再び「国内のインフラ更新に投資」するという話に戻ったばかりか、前日の「大軍拡、その他は圧縮」という発言との整合性を取る姿勢も見せませんでした。

オバマ政権が施行した医療保険改革、俗に言うオバマケアの「廃止と置き換え」つまり改訂については、演説の中でかなり具体的な提案をしていました。ですが、加入者の負担を軽減し、難病に罹患している人を新規に保険に入れるようにし、その一方で入りたくない人の自由も認めるというのでは、どう考えても追加財源が必要になります。

一部には貧困者向けの健康保険(メディケイド)を改悪して捻出するという噂もありますが、そこには触れていません。ということは、要するに具体案は全く煮詰まっていないと言えるのだと思います。

移民政策については、矛盾だらけという印象です。まず、トランプ政権は、1月下旬から「微罪でも犯歴があれば強制送還」という政策を「法律通り執行」するとして、強化しています。大統領は「軍隊も動員するし、最終的には100万人単位の強制送還もあり得る」と話していました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米政府が規制強化、AI半導体輸出に数量制限 同盟国

ワールド

ガザ停戦合意「最終案」、イスラエルとハマスに提示 

ビジネス

中国が世界造船業界を不当に支配、米政権が調査報告発

ビジネス

中国が通貨防衛強化、元安けん制 香港外準増や海外借
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国の宇宙軍拡
特集:中国の宇宙軍拡
2025年1月14日号(1/ 7発売)

軍事・民間で宇宙覇権を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 5
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 6
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 7
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 8
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 9
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story