コラム

トランプの「暴言」は、正式候補になってますますエスカレート

2016年07月26日(火)14時45分

 また同じインタビューでは、トルコの「クーデター未遂」事件に関して、「エルドアン政権の強権化を支持」するとハッキリと打ち出しています。これは、自由と民主主義の理念を発信するつもりがないとか、トルコをNATO(と可能であればEU)に入れて、より開かれた社会として地域の安定化を図るという方針にも反するという批判が出てくるでしょう。

 それ以前の問題として、情勢判断を行う上で十分な情報(インテリジェンス)に接しているのか怪しいなかで、ここまで一方的な発言を行うというのはやはり稚拙と言わざるを得ません。

【参考記事】ヒラリー「肩入れ」メール流出、サンダース支持者はどう動く?

 さらに今週24日の朝にNBCのインタビュー番組に出演した際には、トランプは、「国内雇用をメキシコに移転する動きは35%の関税をかけて阻止する」と述べ、司会のチャック・トッドが「それはWTOに禁止されているからできない」と指摘すると「それならWTOから出て行く」と平然と言い放っています。

 これに対してトッドは「それでは、ブレグジット(英EU離脱)と同じではないですか」と反論すると、トランプは「ブレグジットのショックで下がった株も戻っている」とした上で、「ところで、世界の要人の中でブレグジットを予測したのは俺様ぐらいだ」と威張っていました。

 さらに勢いづいたトランプは、「そもそもEUはアメリカに対抗するために連中が作ったもので、我々の通商の敵」だとしていました。こうなると、暴言と言うより認識不足というか、多国間の通商とか、国際分業といった21世紀の経済の初歩を理解していないとしか言いようがないのです。

 トランプの主張が「暴言」であるのは、常識に外れているとか、品がないということもありますが、とにかく「現実と乖離していて、具体的な政策と結びつかない」ことに最大の問題があります。

 その意味では、選挙戦の初期と比較すると、改善されるどころか、ますますエスカレートしています。では実現不可能な内容だから、単に政治的なエモーションの「うっぷん晴らし」をやっているだけなので「スルー」すればいいのかというと、それは違うと思います。正式の共和党の統一候補となった現在、そしてNATOの問題のように発言それ自体が国際政治に悪い影響を与えかねないことを考えると、無視できなくなっているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏が対中追加関税を表明、身構える米小売業者

ワールド

米中首脳、予定通り会談方針 対立激化も事務レベル協

ビジネス

英消費支出、9月は4カ月ぶりの低い伸び 予算案前に

ワールド

ガザ情勢、人質解放と停戦実現を心から歓迎=林官房長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story