コラム

トランプの暴言に日本は振り回されるな!

2016年03月29日(火)16時30分

 3つ目は、日韓相互のナショナリズムの確執といった、個別の問題を一切無視しているということです。例えば、仮にトランプの方法論で、日韓が「自主防衛」となって防衛コストを100%負担させられるとします。当然、両国の財政と経済は動揺する中で、国の求心力を維持するためには、相互を敵視するという「流れ」になって行く危険もゼロではありません。そうした懸念は、日本や韓国以外にも世界中にゴロゴロ転がっているのです。

 アメリカがコスト負担をして「ビンの蓋」をやっていないと、世界各地で問題が噴出するというのは、確かにそれぞれの各国に「情けない面」があると言えます。ですが、かといって、突然そうした「安全保障の仲介役」からアメリカが降りるようなことがあれば、やはり世界は大変に不安定になるでしょう。

 4点目としては、北東アジアの問題に戻って考えれば、このように無責任な「非関与主義」が実行に移されるのであれば、それは単純に「中国の覇権が拡大する」だけに終わるということです。

 トランプの暴言が、日本の「自主防衛論議」を活性化する可能性もあるとして、一部前向きに捉えるような論調(例えば古谷経衡氏)もありますが、私は違うと思います。

 では、日本人は怒るべきなのでしょうか? 政府や政治家が、そろそろ何かを言うべきなのでしょうか?

【参考記事】トランプ「お前の妻の秘密をばらす」とクルーズを脅迫

 これも違うと思います。基本的には「スルー」するのが正しいからです。2つ理由があります。

 1つは、過去に「怒った国」が沢山あるのですが、いい効果にはなっていないからです。例えばイギリスやヨーロッパの国々、あるいは中南米の国々は「トランプの入国禁止」などを主張して、プレッシャーをかけようとしましたが、失敗に終わっています。何よりも「超内向き志向」で凝り固まっている「トランプ支持者」の心を「ほぐす」という点では、逆効果にしかならないからです。

 2つ目は、経済という観点からすれば「そんなことをしている暇はない」ということです。消費税率アップを先送りするという判断は仕方がないかもしれませんが、GDPのマイナス成長が恒常化するというのは異常な事態です。そんな中で、「これを機会に自主防衛論を活性化」などというような「贅沢な余裕」はどこにもないと思うからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 6
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 7
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 8
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story