コラム

トランプの暴言に日本は振り回されるな!

2016年03月29日(火)16時30分

トランプはすでに外交音痴ぶりを数々の発言で露呈させているが Mario Anzuoni-REUTERS

 共和党のドナルド・トランプ候補の暴言、それも「日本に関する暴言」が止まりません。暴言の一つは、日本が雇用を奪っているから、関税率45%を課して「懲らしめる」といった発言ですが、これはまったく現状認識として間違ったものです。まるで80年代にタイムスリップしたようなレトロ感満載の発言で、あらためて申しますが、怒る気にもなりません。

 問題は安全保障をめぐる「トンチンカン」な発言の数々です。これも、最初の数回はまだ「基礎知識を確認せずに適当に発言しているだけ」という感じだったのですが、そろそろ笑えなくなってきました。

―「在日米軍・在韓米軍の駐留費は100%それぞれの国に負担させる」
―「日本や韓国が100%負担しないのであれば駐留米軍は撤退する」
―「日本・韓国が自主防衛の体制を取るのであれば、両国に核武装を認める」

 こうなると、許容できる限界を越えています。

 問題は4つあります。

【参考記事】トランプ外交のアナクロなアジア観

 1つは、こうした「非関与主義」というのは、アジアの経済をメチャクチャにするということです。まず、北朝鮮という不安定な政権、そして中国という非民主的で拡張主義の軍部を持った国に対して、北東アジアのパワーバランスを確保するのは、大変な努力が必要とされます。

 残念ながら、そのコストのすべてを負担するだけの国力を日本と韓国は有していないのです。仮に100%負担であるとか、核武装という話になれば、日本も韓国も防衛コストで国が潰れてしまいます。この両国の財政と経済が崩壊すれば、世界経済も無傷ではすみません。

 2つ目は、中国に対するバランス確保を「日本と韓国に丸投げする」というのは、アメリカとして中国に「より開かれた社会へとソフトランディングせよ」といメッセージを送り、またそのメッセージが真剣なものであることを示してプレッシャーをかけるのを、止めるということです。

 もちろん冷戦型の対立や、人権外交については、現在のアメリカは中国に対して一本調子で押すような関係にはなっていませんし、そうした硬直した姿勢はお互いのためにならないことを理解しています。

 ですが、自由と民主主義という社会の基本的な価値観の部分で、アメリカが中国に対するメッセージ発信とプレッシャーを止めてしまえば、アジアの秩序は激変します。例えば、台湾や香港は、一気に苦境に立たされますし、中国が先進的な国家へ成熟してゆくための改革にもマイナスになるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベルギー、空軍基地上空で新たなドローン目撃 警察が

ワールド

北朝鮮との対話再開で協力を、韓国大統領が首脳会談で

ビジネス

再送-中国製造業PMI、10月は50.6に低下 予

ワールド

イスラエル、レバノンにヒズボラ武装解除要請 失敗な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story