焦点:停戦はトランプ氏の「大誤算」か、イラン体制健在という厳しい現実
写真はホルムズ海峡を航行する船舶。4月8日、オマーンのムサンダムで撮影。REUTERS
Samia Nakhoul
[ドバイ 8日 ロイター] - トランプ米大統領はイランとの2週間の停戦合意を「勝利」と主張しているが、突き付けられた現実は厳しい。専門家の分析では、強固な足場を維持する過激なイランの政治体制がなお海上交通の要衝であるホルムズ海峡の支配権と、世界のエネルギーやペルシャ湾岸諸国に対する大きな影響力を失っていないからだ。
中東専門家のファワズ・ゲルゲス氏はロイターに「この戦争は、トランプ氏の重大な戦略上の誤算として記憶されるだろう。同氏はこの地域を意図せざる形で変容させてしまった」と語った。
戦争が始まるまで、世界の石油供給量の約2割が通過するホルムズ海峡は、正式な国際海峡として扱われてきた。イランは海峡の監視、通航の妨害、また時折船舶の拿捕(だほ)を行ってきたが、完全な支配を宣言するまでには至らなかった。
ところが新たな現実の下では、イランが単にタンカーを追跡する段階から、実際にタンカーに指図を与えられる立場に移行。現在は航路の事実上の「門番」となっており、どの船にどのような条件で通航を許可するかを決定している。イランが望むのは安全な通航の対価として船舶から料金を徴収することだ。
さらにイランはこれまでの継続的な攻撃に耐え抜く力があると証明し、事態をさらにエスカレートさせる能力を維持しながら、複数の戦線や戦略上の要衝に影響力を及ぼしている。その範囲はヒズボラやシーア派民兵組織を通じてレバノンやイラクに、またフーシ派を利用する形で紅海のバベルマンデブ海峡までと相当に広い。
米国とイスラエルによってインフラを破壊され、経済も相当悪化したものの、イラン指導部の国内統制力も健在だ。
ゲルゲス氏は「米・イスラエルによる戦争は実際に何らかの目的を達成しただろうか。イランの体制は転換したか。イスラム共和国は降伏したか。イランが貯蔵する高濃縮ウランを押さえられたか。地域同盟勢力へのイランの支援を止められたか。答えは全てノーだ」と指摘した。
4人の専門家と3人の湾岸政府関係者も、イランは戦争の痛手を吸収しつつ、中核的な権力機構は存続し、幾つかのケースでは逆に強化されていると認めた。
具体的な事例としては、ホルムズ海峡の支配権に加えて、より暴力的になった政治状況、権限を強めた指導部、確認不能になった核物質、ミサイル・ドローン(無人機)生産や地域同盟勢力への支援継続などが挙げられた。
湾岸政府高官は、地域の安全保障やエネルギー供給の構図を形作っているより根深い対立の解消に取り組めなければ、今回の停戦は長続きしないとみている。
包括的な合意ができない場合、イランの力を封じ込めるどころか、強めてしまう恐れがある、というのが湾岸諸国の懸念だ。
アラブ首長国連邦(UAE)に拠点を置く独立系シンクタンク、エミレーツ・ポリシー・センターのエブテサム・アル・ケトビ所長は、単に目前の敵対行動をやめるよりもずっと踏み込んだ合意にならない限り、地域に新たな不安定を根付かせる公算が大きいと警告する。
ケトビ氏はロイターに「この停戦は解決策ではなく(本当の和平に向けた当事者の)意思を試すものだ。ホルムズ海峡や(イランの)代理勢力への関与のルールを再定義するような幅広い合意へと進展しなければ、戦術的な休戦に過ぎず、その後にはより危険で複雑なエスカレーションが待っている」と強調した。
さらに「トランプ氏がイランと、弾道ミサイルやドローン、代理勢力、核開発関連、ホルムズ海峡の通航といった中核的な問題の解決なしに取引を成立させた場合、対立は残り、地域は危険にさらされ続ける」と付け加えた。
<湾岸諸国の要望>
イラン側は今回の停戦に際して米国に制裁解除やウラン濃縮権の承認、戦争被害の賠償、ホルムズ海峡の管理継続といった条件を提示しており、両国の立場に依然として大きな開きがあることが浮き彫りになっている。
サウジアラビアのアナリスト、アリ・シハビ氏は、石油輸出ルートとしてホルムズ海峡に依存する湾岸諸国にとっては、海峡の開放は引き続き譲れない一線だと説明。「海峡を事実上イランの支配する状態が維持されるなら、トランプ氏の負けになる」と語り、エネルギー高がもたらす逆風は米議会中間選挙にも影を落とす可能性があるとの見方を示した。
シハビ氏は、それでもイランは、制裁緩和を含めた交渉による和解への道筋は開けるかもしれないとみている。
ただ湾岸諸国の視点では状況は極めて不穏だ。地域のエネルギー施設や商業拠点がイランから攻撃を受け、イランに対する不信感が高まっている。その上より深刻なのは、この戦争でホルムズ海峡が露骨な「交渉カード」や威圧の手段へと変わってしまった点だ、と複数の専門家が話す。
経済的なリスクも大きい。イランは恒久的な和平合意の一環として、ホルムズ海峡を通航する船舶から通航料を徴収したい意向だ。この動きは湾岸諸国だけでなく、世界のエネルギー市場にも波紋を広げかねない。
ケトビ氏は「イランが船舶1隻当たり数百万ドルを徴収できるなら、影響は計り知れず、湾岸諸国のみならず世界経済全体に及ぶ。その意味で通航料の現実化は地域の逆風というだけでなく、世界全体に構造的な変化につながる」と述べた。
さらに広い観点では、これは地域の秩序を根本的に変化させることを意味するとの声も出ている。国際規範によって管理されていた海峡が、戦争によって弱体化するどころか、むしろ自信を強めた敵対的国家が事実上取り仕切る場所に変わるからだ。
ある湾岸諸国の関係者は、イランとの信頼回復には口頭での保障ではなく、厳格な書面による確約が不可欠だと主張し、その内容には不干渉の原則、航行の自由、ホルムズ海峡を含む主要海上交通路の安全確保、湾岸諸国の国家安全保障上の諸要件が含まれなければならないと述べた。
これらの条件を包括的な和平合意の一部にするよう、パキスタンの仲介者には伝えられているという。
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