コラム

詐欺罪では足りない、「ニセ警官」への厳罰化が必要な理由

2026年04月08日(水)15時00分

先月プノンペンのオンライン詐欺グループの摘発で押収された偽物の日本の警官の制服 Roun Ry-REUTERS

<警察に対する信頼が詐欺グループに利用されている重大な事案なのに、メディアも警察当局もこの問題への危機感が薄すぎる>

特殊詐欺を行う犯罪集団は、常に熱心に「技術革新」を続けています。今のところ、流行しているのは、ニセの警官を登場させ、被害者を被疑者扱いして脅すという手口です。

例えば、保険証が悪用されているとか、銀行口座が犯罪に使われているとだまして、ターゲットとなった人に犯罪の容疑がかかっているように思い込ませるのです。そして、潔白を証明するためには資産調査が必要だとして、資産の多くを送金させるという凶悪な手口が使われています。


被害者は、最初にコンタクトしてきた人物を警察官だと思い込み、仮に危険を察知して介入しようと本物の警官が登場しても、本物をニセモノと思い込んだりするのです。こうした現象をマインドコントロールだと説明する報道も多く、そうなると被害者の認知能力が低下していたのだなどと、被害者に責任があるようなコメントが寄せられることもあるようです。

ですが、こうしたニセ警官の問題というのは、単なる特殊詐欺よりもはるかに深刻です。例えば、各メディアや警察OBなどが「本物の元警官がニセ警官と電話で対決する」といった動画制作に協力したりしていますが、これでは問題の深刻度は伝わりません。

なぜ、この種の犯罪が深刻なのかというと、そこには2つの問題があるからです。

国の治安維持そのものを揺るがす重大な事態

1つ目は、被害者についてです。被害者は、遵法意識が高く、また法執行機関である警察への信頼を強く持っているのです。そこを凶悪な犯罪集団に付け込まれている、このことが非常に深刻な問題だと思います。メディアだけでなく、警察当局もこの問題への危機感が薄すぎます。被害者の認知能力を批判したり、「これからは警官の識別番号を確認しましょう」などというメッセージを出すのは最悪だと思います。

もう一度申し上げます。被害者の遵法意識、法執行機関への協力姿勢や信頼そのものが、犯罪に利用されている、そのことは国の治安維持そのものを揺るがす大変な事態だと考えるべきです。

2つ目は、仮にこのままニセ警官による詐欺が止められない場合は、時間の経過に従って、善良な市民の間に、警察官を名乗る人物が真正かどうかを疑う習慣ができてしまいます。そんな中で、先ほど紹介した識別番号とか、識別章の見方などの知識が広がると、多くの市民が真剣に「本物の警官なのか」を確認する行動を取るようになります。

その結果として、例えば危険を感じて110番をして、そこに警官が急行したとして、危険にさらされている人物が「一旦そこで警官が本物かを確認する」という作業をするのが当たり前になってしまいます。仮に、一刻を争う事態の場合には、これは警察官の安全確保行動を妨害してしまいます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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