コラム

GDPマイナスのショック、アベノミクスの現在

2014年11月18日(火)12時52分

 では、日本経済は完全に分裂していて、アベノミクスはいくらやっても実体経済には効果はないのでしょうか? そこまでは言えないと思います。市場全体の好循環から、国内企業の株価も上がっていますし、何よりも株の売却益が円で確定したものは国内でグルグル回り始めているからです。

 ただ、今回のGDPマイナスというのは、そうした国内の実体経済への波及効果というのは実は極めて限定的であることを暴露してしまいました。

 では、2013年年初以来の流動性供給は「やらない方が良かった」のでしょうか?

 この議論は、そんなに重要ではないと思います。例えばですが、株の売却益が出てしまったために、守旧派的な経済が延命したり、必要な改革が先送りされたりということはあったかもしれません。また、純粋に投資のリターンを考えた場合にムダな公共投資があったかもしれません。

 ですが、少なくとも流動性供給に関しては「プラス・マイナス・ゼロ」であったと考えるのが自然です。アベノミクスと黒田バズーカの「せいで」不況になったとか、マイナス効果の方が大きかったというのは印象論だと思います。

 ただ、これからは「単なる円安誘導、流動性供給」では、もう株価は反応しなくなるでしょう。また、それだけでは「好況感」も「投資意欲」も出てこないでしょう。そうではなくて、今度こそ、実体経済を改善する政策、特に競争力を失った産業を整理して、競争力のある産業に転換する政策を進めていかなくてはなりません。

 具体的には、グローバルな成長に乗っていける、あるいはグローバルな市場で売っていける産業を、拡大していくということです。もっと言えば、2つに分裂した日本経済を、1つの尺度で再統合するということです。対グローバル市場では高成長だが、日本国内にはグローバルになれないローカル経済があって、そっちは「マイナス」というのではダメだということです。もっと言えば、ドルベースでも成長していける部分と、円の下落とともに沈没していく部分に分裂するのを回避していかなければなりません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当

ビジネス

VWの米テネシー工場、組合結成を決定 南部で外資系

ワールド

北朝鮮が戦略巡航ミサイル、「超大型弾頭」試験 国営
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story