コラム

カーネル・サンダースはなぜマレーシアで嫌われた? KFCを脅かすボイコットのうねり

2024年05月10日(金)12時00分
カーネル・サンダース

タイ・バンコクのKFC店舗の前に立つカーネル・サンダース像(2017年5月23日) Ratana21-Shutterstock

<「穏健なイスラームの国」マレーシアでのボイコットが意味するものとは>


・マレーシアではケンタッキー・フライド・チキンに対するボイコットの結果、100店舗が一時休業に追い込まれた。

・そこにはガザ侵攻でイスラエルを支援し続けるアメリカへの批判があり、マクドナルドなどその他の米ブランドもボイコットの対象になっている。

・マレーシアは「穏健なイスラームの国」とみられ、市場経済化や民主化が進んできたが、だからこそ反米ボイコットは拡大したといえる。

KFC100店舗が休業へ

日本でもおなじみのケンタッキー・フライド・チキン(KFC)を運営するYum Brand社は4月末までに、東南アジアのマレーシアで約100店舗を一時休業にした。

その理由をYum Brand社は「経済的な試練の状況」とだけ説明しているが、より具体的にはマレーシアで広がるボイコットの影響とみられている。

昨年10月からのイスラエル=ハマス戦争で多くの民間人が犠牲になるにつれ、多くの国ではイスラエル批判の論調が強まっているが、なかでもイスラーム世界ではこれが強い。マレーシア人口の60%以上はムスリムである。

批判の矛先はイスラエルだけでなくその最大の支援者アメリカにも向かっていて、アメリカの一つのシンボルであるKFCが標的になっているのだ。

マレーシアで展開するKFCの店舗は昨年末の段階で770にのぼった。そのうち100店舗が一時休業に追い込まれたとすると、ボイコットの規模の大きさがうかがえる。

マレーシアほどでなくても、同様の動きはパキスタン、インドネシア、アルジェリアなど他のイスラーム諸国にも広がっている。

なぜマレーシアで?

KFCの親会社Yum Brandの世界全体での売り上げは今年第1四半期に3%減少した。原材料価格の高騰など他にも理由はあるだろうが、ボイコットの影響がゼロとは思えない。

ボイコットが最も目立つマレーシアは東南アジアでも「穏健なイスラームの国」とみられてきた。

中東の多くの国と異なり、マレーシアは国際的に開かれた市場経済の国であり、同時に表現の自由や選挙もある程度は普及している。さらに1994年からはアメリカ軍と合同軍事演習も行なっている。

とすると、反米感情が高まることに違和感を覚える人もあるかもしれない。

しかし、市場経済や表現の自由が普及しているからこそマレーシアでKFCボイコットは広がったともいえる。

つまり、開放的な経済体制だからこそ世界各地から小売、外食産業も進出していて、KFCの店舗数でマレーシアは世界第8位である。だからこそ、ボイコットの動きが発生した場合のインパクトは大きい。

さらに、メディアや政治活動に対する規制が総じて強い中東各国と異なり、マレーシアでは政府などに対する抗議デモも少なくない。イスラーム世界におけるアメリカの軍事作戦が批判されることも珍しくなく、これまでも湾岸戦争(1991)、アフガニスタン侵攻(2001)、イラク侵攻(2003)などの際に反米デモが広がった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアの対欧州ガス輸出、パイプライン経由は今年44

ビジネス

スウェーデン中銀、26年中は政策金利を1.75%に

ビジネス

中国、来年はより積極的なマクロ政策推進へ 習主席が

ワールド

プーチン氏、来年のウクライナ緩衝地帯拡大を命令=ロ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story