コラム

カーネル・サンダースはなぜマレーシアで嫌われた? KFCを脅かすボイコットのうねり

2024年05月10日(金)12時00分

こうした背景のもと、イスラエル=ハマス戦争をきっかけにマレーシアではKFCだけでなくマクドナルド、ユニリーバ、スターバックスなど、多くの米ブランドがボイコットの対象になっている。

とすると、マレーシアでは開放的であるがゆえに反米ボイコットが表面化しているわけだが、それは逆にマレーシアほど開放的でないイスラーム諸国で潜在的に広がる反米感情を暗示する。

ボイコットはいつまで続く?

ガザでの戦闘が収束しない限り、米企業へのボイコットは今後さらに拡大すると見込まれる。

マレーシア政府はイスラエルやアメリカとの関係を悪化させすぎないことを意識している。

現在クアラルンプールで開催されている防衛装備品の国際展示会に、アメリカ企業が予定通り参加したことは、それを象徴する。マレーシア国内ではイスラエル空軍にF-35ステルス戦闘機を提供する米ロッキード・マーティン社などの参加を批判するデモが広がっていた。

また、ボイコットが広がれば現地雇用の従業員のレイオフも増え、失業率を悪化させかねないことも、政府にとって頭の痛いところだろう。

ただし、政府の慎重な配慮は、かえって国内の反米世論を煽りかねない。

もともとマレーシアの若者の間には(アメリカを含むほとんどの国と同じく)現状への不満が広がっている。4月段階でマレーシアのGDP成長率は4.4%と堅調だったものの、近年では(やはり多くの国と同じく)高等教育を受けた若者の受け皿が減っている。

世界銀行の統計によると、昨年の若年失業率は10.66%で日本の約2.5倍だった。こうした背景のもとで国外移住を望む割合は5.5%にのぼり、世界平均の3.3%を上回った。

将来への不安が強い一方、若年層ほどネットを通じてガザの情報に触れる機会が多く、SNSなどを通じてボイコットの動きが広がりやすい。そのうえ日本と正反対にマレーシアでは、若年層ほど投票率が高い。

つまりマレーシア政府は、対米関係と国内世論の双方に配慮せざるを得ないジレンマに直面しており、KFCボイコットなど法に触れない範囲の反米活動は、好むと好まざるとにかかわらず容認せざるを得ないのである。

昨年末、マレーシアでイスラエル船の寄港が禁止されたのは、国内からのプレッシャーの強さを示す。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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