コラム

素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱

2025年12月22日(月)19時30分
野村泰紀

独占インタビューに応じた野村泰紀氏(10月7日) TOMOHIRO SAWADA-NEWSWEEK JAPAN

<95%が分かっていないという宇宙のこと、ダークマター以上に分からないダークエネルギーとは何か、今日の理論物理学者は何と格闘しているのか、根源的な物理への情熱について──理論物理学者でカリフォルニア大学バークレー校教授の野村氏に聞いた>

最新の宇宙論は内容が難しく、専門家以外がすべて理解をするのは至難の技かもしれません。それでもブラックホール、ダークマター、マルチバースなど、現れる宇宙用語は、耳にするだけでワクワクします。「分かりやすく、熱意を持って説明してくれる物理学者がいたら、より知識を深めることができて身近に感じるのに」と思うことはありませんか。

科学ジャーナリスト茜灯里が、気になるトピックスについて関係者に深掘りするインタビュー企画「茜灯里の『底まで知りたい』」。今回のゲストは、理論物理学者でカリフォルニア大学バークレー校教授の野村泰紀氏です。

最近、マスメディアやインターネット動画で引っ張りだこの野村氏。明晰で引き込まれる語り口と親しみやすいキャラクターで大人気ですが、何よりも「自身が宇宙の謎、現代物理の謎にワクワクしながら挑んでいる」と画面を通じて分かることが、魅力につながっています。

さらに「タレント性」が注目されがちですが、野村氏は本業の理論物理学分野で若い頃から大きな成果を上げています。そのため、現代物理学の世界を縦横無尽に駆け回り、語るその言葉は自信に裏付けされており、視聴者にダイレクトに響くのではないでしょうか。

今回は「95%が分かっていない宇宙」「"分からない"ダークマターとダークエネルギーはどこまで分かっているか」「"野村粒子"でノーベル物理学賞の可能性は?」「素粒子では世界の根源に迫れない?」などについて、大いに語っていただきました。


【今回のテーマ】最新の宇宙論と根源を探ることへの情熱

現在の研究では、宇宙は「95%が分かっていない」とされている。この数値は物理学者が計算し実際の宇宙の観測結果を照らし合わせたもので、科学的な裏付けがあるものだ。

宇宙の「分かっていない部分」を構成するダークマターとダークエネルギーは、どこまで分かっておりどこから分かっていないのか。もともと素粒子論を専門としていた野村氏が、量子重力理論やマルチバース論にシフトした理由とその根底にある「ファンダメンタルなものを解明する情熱」とは何か。近年のノーベル物理学賞受賞事情についても語ってもらった。

この対談を動画で見る

95%が分かっていない宇宙

 野村先生は、物理を面白く分かりやすく話してくれる気さくな先生ということで、今、テレビやウェブメディアで引っ張りだこですね。

今日は色々と伺いたいのですが、読者のみなさんは先生の宇宙論の講義を楽しみにしていると思うので、まずは今年出版された『95%の宇宙』(SB新書)に沿って、最新の宇宙論についていくつか教えて下さい。確認なのですが、本のタイトルになっている「95%」というのは、宇宙の中で分かっていないものが95%という意味なのですよね。

野村 はい。でも、そう言うと「いや、そんなことはない。俺は(宇宙で分かっていることは)1%だと思っている」などという人がたくさん現れます。

けれど、5%という数字には意味があります。宇宙はエネルギーでできているわけです。「物質がある」というのもエネルギーの一形態です。「宇宙のエネルギーの全体量を100%とした時に、何%分のエネルギーの正体が分かってるか?」というと、現在5%が分かっているのです。

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筆者と野村氏 ニューズウィーク日本版-YouTube

 つまり、私たちがすでに分かっている物質、たとえば陽子とか電子とか、そういうものが5%にあたるということですね。一方、私たちが今、見つけられていないものが95%で。

野村 そうです。完全に正体が分かってないものが95%という意味であって、「俺は宇宙の5%を知ってると思う」とか、そういう意味ではないです。

具体的な宇宙のエネルギー密度の話であって、5%分は正体がよく分かっているもので、その他の95%は「エネルギーとしてあること」だけは分かっているという話です。だから何も分からないわけではなくて、エネルギー量だけは分かっているから95%って言える。

 そうでなければ、95%という数字が出てくる根拠がないですものね。

野村 なぜその数字が分かっているかと言うと、エネルギーがあると重力に反応するので、重力を測ると全体でエネルギーがどれだけあるかは分かるんです。全体量が分かっていて、そのうち原子とか電子がどのくらいかというのも星の質量を推定したりすることで分かります。すると5%ぐらいにしかなりません。

 そして残りの95%が、ダークマターと呼ばれているものとダークエネルギーと呼ばれてるものなんですね。そのうち、ダークマターは何%くらいですか。

野村 だいたい25%ぐらいです。ちなみにダークマター、ダークエネルギーというのは、単なる名前です。エネルギーにはいろいろな形態があって、物質が一番普通のエネルギーです。

ここにコップがありますが、これはエネルギーなんです。たとえばコップを潰したりしてエネルギーを取り出すことできます。こういう物質のエネルギーというのは、重力に影響を与えるんです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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