ホルムズ海峡をめぐる危機は、原油だけでなく、石油化学製品の原料となるナフサなど、社会を支える物資の供給不安を浮き彫りにした。危機が収束しても、サプライチェーンの混乱や物資不足は今後も繰り返されるのか。

一方、AIや宇宙開発には巨額の資金が投じられ、イーロン・マスクやジェフ・ベゾスらテック富豪の影響力も拡大している。

新著『人新世の黙示録』(集英社)で、気候崩壊と物資の欠乏が進む世界の行方を論じた経済思想家でマルクス研究者の斎藤幸平氏に、自由市場に任せた危機対応の限界、テック富豪による社会支配の危険性、そして日本で社会主義への関心が広がる可能性について聞いた。

本稿は、ニューズウィーク日本版の公式YouTubeチャンネルで公開した斎藤氏へのインタビュー動画を基に、発言の趣旨や語り口を残しながら、一部を整理・編集してQ&A形式に再構成したものです。

危機を「備蓄で乗り切った」で終わらせてはいけない

──ホルムズ海峡で原油輸送が再開しても、世界経済が元に戻るまでには時間がかかるとみられています。今回の危機の影響を、どのように見ていますか(インタビューは2026年6月26日に実施)。

この危機は、戦争がとりあえず落ち着いて、ホルムズ海峡も開いた、日本は備蓄で何とか乗り切れた、良かったね、という話で終わらせてはいけないと思います。

今後も似たような戦争や物資危機は、継続的に起き続けるでしょう。今回のことを、「備蓄をしておけば大丈夫だった」で終わらせるのではなく、危機が慢性化していく時代に、市場任せの解決策で本当にいいのかを反省し、必要な対策を取る転機にする必要があります。

今回のホルムズ海峡の危機では、ナフサが大きな問題になりました。ナフサは身の回りのあらゆるものに使われています。『人新世の黙示録』の表紙のコーティングにも必要ですし、危機が長期化すれば、本が増刷されてもカバーを作れなくなる、という話もありました。

政府は、総量は十分にあり、備蓄や代替調達もしているので、直ちに心配する必要はない、と繰り返していました。他方で、現場からは、「実際には足りていない」という声も出て、政府が情報を隠しているのではないかという疑念もありました。

備蓄は十分にありましたし、私は政府が都合の悪い情報を隠していたとは考えていません。実際、ガソリン車も普通に走っているわけです。

でも、「足りています」というメッセージだけで十分だったのか。そこで浮かび上がったのが、自由市場型の解決策の限界です。

供給不安があると、企業は普段より多めに注文する。卸す側も、注文された分を全部出すのではなく、供給を絞る。各企業から見れば合理的な判断ですが、それが積み重なると、社会全体では「足りない」という不合理な結果が生まれる。

いわゆる合成の誤謬です。今回のナフサ危機では、それが自由市場に任せた結果として起きた。そこが問題だと思っています。

国家規模の投資を、一人の富豪に任せていいのか
【関連記事】