コラム

「ウクライナ追加支援6000億円」を擁護する論理(人道や国際正義をぬきに)

2023年12月27日(水)21時40分

とはいえ、ロシアがクリミア半島を編入した2014年(約4億ドル)やコロナ感染拡大の2020年(マイナス3600万ドル)と比べて、その減少幅は限定的ともいえる。

ウクライナ向けFDI

それだけ海外からの投資は根強いわけだが、具体例をあげるとアメリカの金融大手シカゴ・アトランティックは約2億5000万ドルを投資してウクライナでの住宅建設などに参入する方針である。

アメリカだけでなくEU、さらにロシア制裁と距離を置く中国、インド、アラブ首長国連邦(UAE)でも同様の動きはみられる。

ウクライナに食い込める手段の限界

インフレで世界的に消費が落ち込むなか、財・サービスの需要が急激に高まるのは戦地以外に少ない。だからこそウクライナは「ヨーロッパ最後の大チャンス」とも形容される。

多くの企業が関心を持つのは軍事産業やインフラ復旧だけではない。

ウクライナの投資ガイドによると、この国には世界3位のトウモロコシ輸出をはじめとする農業、世界2位のシリコマンガン輸出などの鉱物資源、EU圏や中東産油国などに近い立地条件、情報エンジニアを含む人的資源など、いくつかの好条件がある。

こうした注目セクターはNASDAQでも紹介されている。

ただし、民間投資がスムーズに進むかは、日本とウクライナの政府同士の関係によっても左右される。

一般的にインフラ建設や資源開発など相手国に許認可権があるものについては、進出しようとする企業の本国政府によるバックアップが欠かせない。

通常の場合でさえそうなのだが、戦時下という特殊な状況のウクライナならなおさらだ。例えば、企業の安全への配慮ひとつとっても政府間の連携と情報共有は欠かせない。

ところが、この点において日本の優位性は少ない。ウクライナ侵攻以前からのつき合いは薄いし、昨年2月からも欧米のように軍事援助しているわけではない。

だとすれば、人道支援といった民生支援で存在感を出さなければ、その先の民間投資でも成果を期待しにくい。つまり、人道や国際正義はさておき、「日本の利益」という観点からみて追加支援には必然性を見出せる。

日本政府は来年2月、東京でウクライナ経済復興推進会議を開催するが、ここではインフラ建設や農業などビジネス分野も議論になる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と電話会談の用意 「主権国家

ワールド

ウクライナ鉱物協定、近く署名へ 発電所の米所有巡り

ワールド

ロシア・ウクライナ、攻撃の応酬 「石油施設で火災」

ビジネス

FRBの利下げ望む=トランプ氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 6
    ロシア軍用工場、HIMARS爆撃で全焼...クラスター弾が…
  • 7
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 8
    トランプの脅しに屈した「香港大富豪」に中国が激怒.…
  • 9
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 10
    ドジャース「破産からの復活」、成功の秘訣は「財力…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 10
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story