コラム

「ウクライナ追加支援6000億円」を擁護する論理(人道や国際正義をぬきに)

2023年12月27日(水)21時40分

日本企業に投資を促すなら必要なこと

とはいえ、日本企業の進出をテコ入れするにしても課題は残る。最大の懸案はもちろん戦闘がいつまで続くかだが、それ以外にも3点があげられる。

第一に、単に政府同士が「仲良く」なるのではなく、日本企業の活動がスムーズに行えるよう、ウクライナ政府に働きかけることが欠かせない。

NGOトランスペアレンシー・インターナショナルの計測によると、ウクライナの公的機関の透明性はアフリカの貧困国なみに低い。窓口の担当者ごとに言うことが違ったり、法令にのっとった手続きが行われたりしにくければ、安心したビジネス環境とはいえない。

身びいきの強いアメリカ政府でさえこれを否定できない。ホワイトハウスでウクライナ経済復興を担当するプリツカー特別代表は、透明性や説明責任の改善を含むいくつかの改革の必要を指摘している。

日本政府が投資環境の整備をウクライナ政府に強く求めないままなら、その旗振りに日本企業が付き合えるかはあやしい。

第二に、幅広く利益を還元できるかだ。

政府のテコ入れで日本企業がウクライナにビジネスチャンスを広げること自体は悪くないだろう。しかし、現下の雇用環境では、企業が利益をあげてもそれが働く者に十分還元されているとはいいにくい。

岸田政権が発足当初に掲げた「新しい資本主義」は静かに消え去ったままだ。巨額のウクライナ支援と並行して日本企業を支援するなら、改めてこの点がクローズアップされるべきだろう。

世論を無視する外交を待つもの

そして第三に、沸き起こる国内の不満をほぼ無視した巨額のウクライナ支援が、将来への禍根になることだ。

世論に任せた外交は危ういものになりやすい。その象徴は、支持者の内向き志向を頼みにしたトランプ政権が、「アメリカの利益に反する」とみなした条約や協定を次々と反故にする、およそ国際的常識とかけ離れた外交を展開したことだ。

ただし、世論に乗ったトランプ外交は、専門家、政治家、ステークホルダーによる「密室外交」への反動でもあった。

知り合いのある外交関係者はかつて筆者に「荒れやすい国会では落ち着いた議論もできない」とグチったことがある。これはこれで理解できなくもない。

とはいえ、「その筋の人間だけわかればいい」式のやり方がポピュリストを招いたのだとすれば、重要なのは世論を軽視したり、ただ世論に乗ったりするのではなく、世論をリードできる外交を展開できるかにある。

生活不安が高まるなかでのウクライナ追加支援は、その一つの試金石といえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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