「語られることのない言葉」──元CIA工作員グレン・カールが香港で見た自由の現在地
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大規模火災の真相究明を要求することは政府が許さない KEVIN LIーTMHKーNEXPHER IMAGESーSIPA USAーREUTERS
<香港は、いまも富と活力に満ちた都市に見える。清潔な街並み、整った公共交通、忙しく行き交う人々。だが、その表層の下で、確実に失われつつあるものがある。それは「語る自由」だ。元CIA工作員グレン・カールは、香港滞在中、人々がある話題について口を閉ざす瞬間を何度も目にした。彼が直面したのは、全体主義が日常に溶け込んだ社会の静かな現実だった>
▼目次
大規模火災が起きても、許されるのは「中国政府が容認する言葉」だけ
疑われることのない、権力者の「真実」の数々
自由の重要性は、今の香港が示している
香港の今を最もありありと描き出す言葉──それは、この街で「語られることのない言葉」だ。
香港には富と活力があふれていて、人々は各自の用事に忙しく駆け回っている。公共交通機関は、アメリカよりもずっと充実しているし、道路はにぎやかでしかも清潔だ。人々は礼儀正しく、時には率直すぎるくらい率直で、温かみがあり、懸命に成功を目指している。なんと素晴らしい社会だろう!
よほど注意深く観察しない限り、活気に満ちた社会の表面を一皮めくると、不安と将来展望の不透明さが潜んでいるという現実は見えてこない。言いたいことを言えるし、やりたいこともできる。けれども、政府が掲げる美しい「真実」に反する言動は許されない、という条件が付く。





