コラム

少子化対策「加速化プラン」がまさに異次元である3つの理由──社会との隔絶

2023年04月03日(月)15時30分
岸田首相

記者会見で子育て政策について語る岸田首相(3月17日) YOSHIKAZU TSUNO/Pool via REUTERS

<具体的な数値目標まで盛り込まれた「たたき台」で意味不明さが際立つ3つの問題とは?>


・政府が発表した少子化対策の「たたき台」はいくつかの数値目標を盛り込んでいるが、特に重要な情報や方針に関しては明示されていない。

・また、優先事項が打ち出されたものの総花的で、結局何を優先させるかが不明である。

・さらに、「待機児童対策に一定の成果があった」として、保育所の拡充にひと段落つけ、家族の役割を重視する方針をこれまで以上に強調している。

鳴り物入りで発表された少子化対策のたたき台には、異次元レベルとも呼べる3つの大きな欠陥がある。

具体策が提示された「たたき台」

小倉将信こども政策担当相は3月31日、「異次元の少子化対策」のたたき台を発表した。

この「たたき台」は、岸田文雄首相が自ら議長を務め、関係閣僚や有識者、子育て当事者が参加する「こども未来戦略会議」で議論される。

その内容を簡単にまとめると、「'日本が結婚、妊娠、子ども・子育てに温かい社会の実現に向かっているか'との問いに対し、約7割が'そう思わない'と回答している」など、厳しい状況がまず認められている。そのうえで経済支援、子育て家庭向けサービス、働き方改革の推進などによって、2030年代に入るまでに少子化を反転させることを目指している。

この方針のもと「たたき台」ではいくつかの具体的内容が明記されている。例えば、

・出産一時金の引上げ(42万円から50万円)
・児童扶養手当の対象に高校生を加え、所得制限は撤廃
・育休中の給付率を現行の67%(手取りで8割に相当)から8割程度(手取りで10割)に引上げ
・低所得世帯向けの給付型奨学金の対象を拡大

こうしてみると、子育て政策に消極的だった政府がやっと本腰を入れたかという感想もあるかもしれない。

議論の土台か、政府方針か

しかし、実際に「たたき台」に目を通すと疑問も多い。根本的なものとしては「これはそもそも'たたき台'なのか?」と聞きたくなる。

一般的にたたき台とは素案あるいは「細かいことは決まっていない段階のアイデア」で、企画書の前段階と理解される。そこでは会議における共通認識の土台となる、現状報告や参照データ整理が中心になる(だから普通は新人に任される)。

しかし、今回の「たたき台」は一部に具体的な数値目標まで盛り込んでいて、一般的な理解より踏み込んだ内容だ。そのため、議論の土台というよりむしろ政府方針と見た方がよい。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story