コラム

少子化対策「加速化プラン」がまさに異次元である3つの理由──社会との隔絶

2023年04月03日(月)15時30分

それならそれでもいいが、この「たたき台」がもし政府方針なら、それこそ異次元レベルの意味不明さが際立ってくる。そこには主に3つの問題がある。

(1) 盛り込まれていない情報が多い

「たたき台」が政府方針だとすれば、そこに盛り込まれていない情報の扱いが不明になる。

例えば、岸田首相は2月15日の国会答弁で「子育て関連予算の倍増」に言及した。実現すればGDPの約4%に相当するが、これは主要国の平均以下の水準からいきなり世界一になることを意味する。

mutsuji230403_1.jpg

その後、岸田首相は答弁を事実上撤回した。それでは結局どの程度を目指すかについては「たたき台」に明記されていない。

予算規模を示さないことを政府関係者は「議論の土台だから政府としての目標はない」というかもしれない。しかし、それなら先の「育休手当8割」などの目標設定はどうなるのか(恐らくは官邸がどうしてもという部分だけ数値目標が盛り込まれ、あとは関連省庁との協議次第ということなのだろうが)。

これに加えて、「たたき台」の発表に合わせて政府では財源として社会保険料の引き上げが検討されている。

インフレが続くなか、社会保険料の引き上げ自体が大きなテーマだが、それを一旦おくとしても、社会保険料引き上げも「たたき台」で全く触れられず、財源については「骨太の方針2023までに結論を得る」とあるだけだ。

つまり、一方では政府方針と読める内容を盛り込みながら、「たたき台」には必要かつ重大な情報や方針が欠落している。

そもそも子ども家庭庁に文科省、厚労省、経産省といった関連省庁の調整しか権限がない以上、仕方ないかもしれない。

とはいえ、少なくとも、実質的に政府方針である「たたき台」に「政府方針ではなく議論の土台に過ぎない」という解釈が都合よく混ざっていることは間違いない。そこに「矛盾はない」というなら、永田町界隈以外では異次元的な解釈とみなされても仕方ない。

(2) 優先課題に含まれる疑問

第二に、優先順位の問題がある。

「たたき台」を読めば、以下の6点が優先的に取り組むべき課題としてあげられている。

①子育て世帯への直接給付強化
②子育て支援を量の拡大から質の向上に転換
③これまで対応が手薄だった年齢層を含め全年齢層への切れ目ない支援
④社会的養護や障害児支援など多様な支援ニーズに対する支援基盤の拡充
⑤共働き・共稼ぎの推進、特に男性育休の普及
⑥社会全体の意識改革

どれもこれも重要テーマということに異論は少ないだろう。①で取り上げられた児童扶養手当については、とりわけ関心を集めやすいテーマだ。

mutsuji230403_2.jpg

実際、上のグラフで示したように、子ども一人当たりの直接給付額で日本は先進国平均を下回る水準にある(欧米各国は日本より物価水準やインフレ率が高いので金額をそのまま比較できないものの、その分日本では平均所得が伸びていないので、このギャップは実質的にほぼ相殺されると考えられる)。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story