コラム

少子化対策「加速化プラン」がまさに異次元である3つの理由──社会との隔絶

2023年04月03日(月)15時30分

「たたき台」でこの点に踏み込んだのは一定の評価ができるだろう。

ただし、所得制限が撤廃されたとしても、給付額に変更がなければ国際的にみて低い水準のままだが、この点については「諸外国の制度等も参考にしつつ見直しを行う」としか書かれていない。

これが直接給付以外となると、さらに曖昧だ。

「たたき台」に示された①以外の課題は「あれもこれも」と盛り込みすぎて、優先順位が不明瞭だ。よく言えばバランス重視だが、悪く言えばメリハリがなく、この点ではこれまでと大きな違いはない。

例えば③では「これまで対応が手薄だった年齢層」を念頭に、全年齢層への切れ目ない支援が打ち出されている。

mutsuji230403_3.jpg

ところが、上のグラフからは、これまでの日本の子育て支援が多くの国と比べても全年齢にかなり満遍なく分布していた(だから十分だったとはいえないが)ことがわかる。フィンランドのように未就学児に重点を置いているわけでもなければ、アメリカのように中学・高校レベルを重視してきたわけでもない。

だとすれば「対応が手薄だった年齢層に配慮する」という優先課題は、何を優先しようというのか意味不明といわざるを得ない。

(3)待機児童対策に一定の成果?

そして最後に、「たたき台」には事実の過大評価ともいえる記述が紛れている。とりわけ注意すべきは、先の優先課題②だ。

「たたき台」のこの部分の文章を正確に引用すると、「待機児童対策などに一定の成果が見られたことも踏まえ、子育て支援については、量の拡大から質の向上へと政策の重点を移す」とある。

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実際、上のグラフで示すように、とりわけ難しい0-2歳児の保育所入所には改善がみられる。

mutsuji230403_5.jpg

とはいえ、その割合は今でも約4割で、主要国の平均をわずかに上回る程度だ。

この段階で「量から質へ」と主張するのは「保育所の増設・拡大をこれ以上しない」という趣旨になる。

その一方で、先述のように政府は、育休中の給付率引き上げ、男性育休などを推進すると言っている。家族で育児できれば「待機児童」でなくなるという論理だろう。

ということは、「保育所は増やさないが、その代わりに自宅で面倒みれるようにしよう」となる。家族中心という意味では、高齢者や疾病者の医療・介護政策と同じ発想だ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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