コラム

「南アフリカで大規模テロの恐れ」とアメリカが発表、経緯や関与組織は? 知っておきたい4つの知識

2022年11月02日(水)17時55分

2019年11月にはショッピングモール、移民居住区、政府施設などに生物兵器を用いて攻撃することを計画していた白人極右組織「全国クリスチャン抵抗運動」のリーダーらが逮捕され、今年9月に裁判で終身刑が科された。

ほとんどの白人右翼は有色人種や移民だけでなく、同性愛者も嫌悪する(この点ではイスラーム過激派と同じ)。

そのため、今回のアメリカ大使館の警報に関して、現地メディアnews24は29日にサントンで予定されていた同性愛者のイベントとそこに参加予定の有名コメディアンが標的になった可能性が高いと報じた。

このイベントは結局、厳重な警戒のなか、予定通り29日に実施された。

4. 警報は適切だったか

今回の警報は、「そもそも海外のテロ計画の危険をアメリカが直接発信したことは適切だったか」という問題を抱えている。

アメリカの警報があった翌日、スペイン首相との会談で南アのラマポーザ大統領は「我々と何の相談もなしにアメリカが発信したことは不幸なことだった」、「我々の国民にパニックを起こすような発信を外国政府が行なったことは不幸だ」と述べた。

アメリカ政府はこれまでにもしばしば外国でのテロ警報を直接発信し、現地政府と物議を醸してきた。

例えば2010年10月、アメリカ政府は「ヨーロッパで大規模なテロ計画がある」と発表して、アメリカ市民に渡航自粛を呼びかけた。これにEU加盟国は強く反発し、ベルギーの当時の内務大臣は「こうしたことはヨーロッパの不安定を助長する」とさえ述べた。

本来、何らかのテロ情報をキャッチしたなら政府間で伝達され、現地政府が警報を発するのが筋だ。

逆に、その当然の手順を踏まないことは「相手の政府を信頼していない」というメッセージにさえなりかねない。

情報の信頼性にもよるが、むやみに「脅威」を発信されれば、その国の社会・経済に悪影響を及ぼすことにもなりかねない。ところが、コトの性質上、アメリカが事前に行う警報にはターゲットなどに曖昧な部分が多く、それがトラブルに拍車をかけやすい。

こういうと「それだけアメリカは国民の生命を重視しているのだ」という意見もあるかもしれない。しかし、アメリカ国内では年間100件以上のテロ事件が発生しているが、アメリカ政府が国内で日付や場所を特定して市民に警報を発することはほとんどない。

そこまでして海外で警報を出し、それが当たればまだしも、空振りになった場合は「アメリカが大国風を吹かせた」という印象だけが残りやすい。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NY市長選でマムダニ氏勝利予測、34歳の民主候補 

ビジネス

利上げの条件そろいつつあるが、米経済下振れに警戒感

ビジネス

仏検察、中国系オンライン通販各社を捜査 性玩具販売

ワールド

ロシア石油大手ルクオイル、西側の制裁で海外事業に支
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story