コラム

アジアの重石になった日本──「中国包囲網の'穴'」であることの意味

2021年09月24日(金)21時05分
菅義偉首相と中国の王毅外相

菅首相と中国の王毅外相(2020年11月25日、東京) Behrouz Mehri/Pool via REUTERS


・領土問題などを除くと、日本は中国に厳しく対応しているとはいえない。

・むしろ、経済や人権問題で、日本はアメリカ主導の中国包囲網の「穴」になっている。

・それは日本政府の意図とは無関係に、日本をアジアの重石にしてきた。

米中対立が深刻化するアジアで、日本にはどっちつかずの方針が目立つが、これは少なくとも結果的に、全体のバランスが大きく崩れるのを防ぐ役割を果たしている。

核不拡散のグレーゾーン

9月15日、アメリカはイギリス、オーストラリアとともに、インド太平洋における新たな安全保障協力の枠組みAUKUSを発足させ、それにともなってオーストラリアには原子力潜水艦の技術が提供されることになった。機密性の高いこの技術の供与は極めて稀で、アメリカにとって初めてのことだ。

中国を念頭においたこの合意に関して、米英豪の3カ国は「原潜の駆動系に関する技術供与で、オーストラリアが核武装するわけではない」と強調している。核兵器の移転を禁じた核不拡散条約で、原潜はグレーゾーンにあるからだ。

極めてセンシティブな技術の供与は、アメリカがオーストラリアを安全保障上のパートナーとしていかに重視しているかを象徴する。AUKUSはこの他、軍事分野で重要性を増すAIやサイバー分野での協力強化も目指している。

こうしたAUKUS発足は、米中対立のステージがさらに上がったことを意味する。そのため、日本で「これを機に日本もますますアメリカと協力を深めるべき」といった論調があることは不思議ではない。

中国包囲網の'穴'

とはいえ、日本がAUKUSのように踏み込んだ安全保障協力に向かうか、あるいはアメリカがそこまで期待しているかは疑わしい。アメリカ主導の中国包囲網において、日本はいわば大きな「穴」になってきたからだ。

日本はアメリカ、オーストラリア、インドとともにQUAD(日米豪印戦略対話)の一員であり、昨年からインド洋での合同軍事演習を行なっている他、中国と領土問題を抱えるベトナムやフィリピンに武装可能な船舶を提供するなど支援を強化してきた。

しかし、領土問題を除けば、日本の態度は決して厳しいものではない。それはとりわけ経済分野で鮮明だ。

アメリカがデカップリングを叫ぶ現在でも、中国は日本にとって最大の貿易相手国である。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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