コラム

右翼はなぜ頑なにマスクを拒絶するのか、その思想性

2020年12月18日(金)13時15分

顔に下着を被り、コロナ対策に反対するデモ参加者(写真は2020年8月、ベルリンにて) Axel Schmidt-REUTERS


・ロックダウンはもちろん、マスク着用にさえ抵抗する動きは世界中で広がっているが、とりわけ右翼によるものが目立つ

・右翼にはもともと現在の体制への不信感が強く、それによって私生活が拘束されることに拒絶反応が生まれやすい

・これに拍車をかけているのが、右翼に典型的な「自分は他人ができないことをできる」という万能感の強さとみられる

コロナ第二波、第三波が押し寄せるなか、マスク着用などをことさら嫌い、周囲とトラブルになる人は多かれ少なかれどの国にもいるが、本人がどこまで意識しているかはともかく、コロナ対策の拒否には右翼の思想性を見出せる。

コロナ対策に反対する人々

日本よりコロナ感染が拡大している各国では、ロックダウンなどより厳しい措置がとられているが、それに比例して抗議活動も活発化している。ロックダウンは生活に大きな影響を及ぼすため、様々な立場から批判は出やすいが、なかでも目立つのが右翼によるものだ。

ここでいう右翼とは政治的な「保守」よりさらに右の、いわゆる極右を指す。

コロナ蔓延の初期、欧米でアジア人などへの差別が広がったことは記憶に新しいが、コロナ対策の強化もまた右翼の活動を活発化させているのだ。例えば、ヨーロッパで感染者が特に目立つ国の一つ、スペインでは5月、右翼団体がロックダウンに抗議して高速道路を占拠した。

マスク着用など、より基本的なコロナ対策への反対でも右翼は目立つ。アメリカのトランプ大統領やブラジルのボルソナロ大統領などがコロナを軽視し、マスク着用やロックダウンに消極的なことは、その象徴だ(そして2人とも感染した)。

そのトランプ大統領を支持する右翼団体「プラウド・ボーイズ」は、厳しいコロナ対策で知られるミシガン州ホイットマー知事の誘拐を企て、事前に多くの逮捕者を出したことで、世界にその名を知られることになった。

また、ドイツでは8月、マスク着用に反対するデモが行われたが、平和的な抗議活動に多くの右翼活動家が合流し、連邦議会に乱入しようとするなどしたため、緊張が高まった。

体制批判の先の反マスク

右翼がコロナ対策に反対する最大の理由には、もともと多くの右翼が現在の体制を認めていないことがあげられる。

その典型はドイツの右翼「帝国の市民」だ。この団体は第二次世界大戦がまだ終わっておらず、ドイツ第三帝国が存続していると主張する。今の体制を認めない立場から、「帝国の市民」支持者は納税の義務などを拒絶し、外国にルーツのある市民の権利を認めようとしない(「帝国の市民」はコロナ感染が拡大し始めた3月、非合法化された)。

ここまで分かりやすい例は稀だが、各国の右翼は多かれ少なかれ、現在の体制を拒絶する点で共通する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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