最新記事

欧州政治

難民危機で台頭しウイルス危機に敗れたドイツ極右

Coronavirus Has Paralyzed Europe’s Far Right

2020年4月15日(水)17時55分
エミリー・シュルタイス

煽られた危機ではなく本物の危機がやってきたとき、ドイツ人が頼ったのは落ち目と言われたメルケルだった Michel Kappeler-REUTERS

<新型コロナウイルスの大流行で分断されたヨーロッパの現状は、まさに極右政党の主張どおり。だが国民の注目は政府に移り、極右勢力の影響力は一気に失われた>

ドイツの極右ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢」(AfD)はこれまで、ほぼ定期的に世間の注目を集め、それを政治的な勢いに変えてきた。

AfDに属する政治家たちは天性の挑発の才能に恵まれており、難民と移民排斥への執拗なこだわりと政府の失敗を非難する無数のネット投稿を通じて、AfDは常にマスコミで大きく扱われ、ドイツの政治的議論の方向性に不釣り合いに大きい影響力を発揮してきた。

AfDは今も難民を攻撃するメッセージをツイートし、アンゲラ・メルケル首相の政府を非難している。新型コロナウイルスの大流行で12万5000人を超える感染者が確認され、市民の大半が自宅隔離状態にある今こそ、危機を煽るAfDの独壇場とも思えるが、人々は以前ほどAfDの主張に耳を貸さなくなっている。

欧州で政権を取った極右政党はすでに、独裁的な政策を推進するチャンスとして新型コロナウイルスを利用している。ハンガリーのビクトル・オルバン首相は、非常事態における首相の権限を無期限に大幅に拡大する法律を成立させ、ポーランドの与党「法と正義の党」は、都市封鎖で選挙運動がほとんどできないという状況にも関わらず、5月の大統領選挙を実施する方向で進めている。

<参考記事>ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援

極右の新たなジレンマ

しかし、AfDのように、現時点で政権を担当していない野党政党は、新たなジレンマに直面している。有権者の関心はほぼ全面的に、危機を乗り越えるために国民を導く現職指導者と専門家に移り、極右勢力はこれまで欲しいままにしていた世間の注目を失った。

極右政党が長い間提唱してきた厳格な国境管理と国民国家の確立、自国民第一主義は、短期間とはいえ今、新型コロナによって現実のものとなっている。このタイミングで、極右政党がこれまでにない苦境に陥るとは、なんとも皮肉な話だ。

これまでのような政治的影響力がなくなった極右勢力は、わかりやすく注目を集めやすいメッセージを発信しようと必死だ。

「今回のウイルス危機は、AfDが恩恵を受けてきたユーロ危機や難民危機などの危機とは違う」と、ベルリンの政治コンサルタントで、AfDのコミュニケーションと修辞的な戦術を熟知するヨハネス・ヒリエは言う。「ユーロ危機と難民危機の場合は外部の敵がいた。だが今回の敵はウイルスで、内部から広がっている。ポピュリストが得意とする『私たち』対『彼ら』、インサイダー対アウトサイダー、という二項対立はもはや機能しない」

<参考記事>ドイツの民主主義はメルケル後までもたない?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国1─2月工業部門利益、前年同期比15.2%増 

ワールド

イラン紛争の影響はコロナ禍に匹敵も、プーチン氏が言

ワールド

トランプ氏、イランのエネ施設攻撃を4月まで延期 「

ワールド

原油先物は反落、トランプ氏がイランのエネ施設攻撃を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 3
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRANG』に託した想い、全14曲を【徹底分析】
  • 4
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 5
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 6
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 7
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 8
    トランプが誤算? イラン攻撃延期の舞台裏、湾岸諸国…
  • 9
    「予想よりも酷い...」ドラマ版『ハリー・ポッター』…
  • 10
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 9
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中