最新記事

極右

ドイツの民主主義はメルケル後までもたない?

Behold Germany’s Post-Merkel Future and Despair

2020年2月10日(月)19時43分
ピーター・クラス(ライター、在ベルリン)

「チューリンゲン危機」に関する会議の後、首相府を後にするメルケル首相(2月8日) Annegret Hilse-REUTERS

<州首相の選出でメルケルの与党CDUが極右政党と同じ候補を擁立するという衝撃の事件がチューリンゲン州で起こった。ナチスが初めて閣僚を出した州だ>

ドイツ東部チューリンゲン州の州議会は2月5日、リベラルな自由民主党(FDP)のトマス・ケメリヒを州首相に選出した。昨年10月に行われた州議会選挙におけるFDPの得票率はたったの5%。数の論理から行けばあり得ないはずだが、第2党に躍進した極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がケメリヒの支持に回った。極右政党の支持によって州首相が選出されたのは、第2次世界大戦後のドイツでは初めてのことで、ドイツに大きな衝撃が走った。

選挙で第6党に終わったリベラル政党が極右政党の手を借りて首相を出すのは民主主義ではない、八百長だ、と激しい批判を浴びたケメリヒは、1日も持たず辞任に追い込まれた。それでも、選出の背景にあった禁断の多数派工作がもたらした衝撃は収まっていない。その象徴が、州議会でケメリヒがAfDのビョルン・ヘッケと握手する写真だ。ヘッケはAfDのチューリンゲン州代表を務める人物で、党内でも特に過激な指導者として知られる。

ドイツの民主主義を引き裂く握手──リベラル政党のケメリヒ(左)と、極右AfDのヘッケ


だが今回の選出劇には隠れた主役がいる。そもそもAfDに単独でケメリヒを州首相にする力などない。AfDとタッグを組んでケメリヒに支持票を投じたのは、アンゲラ・メルケル首相の与党、中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)だったのだ。

頼りにならなくなった国民政党

メルケル首相の穏健な政治と同一視されることが多いCDUが一枚噛んでいたことに驚く人もいるかも知れない。だがそうしたゆがんだ行動は、CDUの病的なまでの中道主義の産物で、驚くようなものではない。メルケル指導部にしっかりしたイデオロギーの軸がない以上、CDUが、そしてメルケル政権下のドイツがイデオロギー的にぶれるのは時間の問題だった。

チューリンゲンの州議会選は、極右の台頭を嫌う人々に、「国民政党」と呼ばれる大政党はもはや頼りにならない存在であることを示した。この選挙でCDUの得票数が全体に占める割合は2014年の前回選挙より約10ポイントも下落して22%となり、もう一つの政権政党、社会民主党(SPD)は12ポイント減の8%になった。

一方、2014年の選挙以降、ボド・ラメロウ前州首相の出身政党としてSPDおよび緑の党と連立を組んできた左派党の得票はわずかながら伸びた。だがSPDが票を落としたことで連立与党は過半数を失った。新たな連立をめぐって主要政党間での綱引きが膠着状態に陥った挙げ句、ケメリヒとCDUが組んで勝利に持ち込んだわけだ。AfDとの間で事前にどの程度の合意が形成されていたのかは明らかではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

優良信用スコア持つ米消費者、債務返済に遅れ=バンテ

ビジネス

メルセデス・ベンツ年金信託、保有する日産自株3.8

ワールド

イスラエルがガザの病院攻撃、20人死亡 ロイター契

ワールド

インドの格付け「BBB-」維持、高債務と米関税リス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 10
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 9
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中