コラム

シュルツSPD首相候補の登場はドイツを変えるか?

2017年02月27日(月)18時30分

シュルツ社会民主党(SPD)首相候補 Hannibal Hanschke-REUTERS

<今年9月にはドイツ連邦議会選挙が実施される。突然登場したシュルツ社会民主党(SPD)首相候補が大きな注目を集めている。シュルツとは何者か?>

2017年の選挙とシュルツの登場

イギリスのEU離脱決定、ポピュリスト政党の台頭などEUを取り巻く環境は厳しい。ギリシャ危機をはじめとする南欧諸国の債務危機はある程度沈静化してはいるものの、本質的には解決しておらずなおくすぶりつつけている。クリミア併合後のロシアとの冷たい関係や2015年ほどでないとしても押し寄せる難民問題にも解決の展望が開けているわけではない。トランプ米大統領の就任はこれまでの米欧関係を揺るがす可能性もある。

このようにさまざまな不安要素に満たされている2017年にヨーロッパではいくつかの重要な選挙が実施される。とりわけ注目されるのがウィルダース党首率いる排外主義的右翼政党自由党の議席数が注目される3月のオランダ議会選挙、ルペン国民戦線党首が大統領になる可能性をなお完全には否定しきれない4月のフランス大統領選挙(1回目投票で過半数を獲得する候補がいなければ5月に決選投票)、そして9月のドイツ連邦議会選挙である。

これらの選挙のうち、ドイツでは突然登場したシュルツ社会民主党(SPD)首相候補が大きな注目を集めている。

ドイツはEUの安定の軸であり、たとえ極右勢力「ドイツの選択肢(AfD)」が連邦議会に相当数の議席を獲得することになっても、2005年末以来首相をつとめるメルケル・キリスト教民主同盟(CDU)党首が再選される可能性が高いと見られてきた。SPDはメルケル首相のCDUと大連立政権を担ってきたこともあって、CDUとの政策の違いを連邦レベルでは十分に強調することができず、長い間世論調査における政党支持率は20%台の前半であった。そのため2017年の連邦議会選挙に向けても苦戦することが予想されていた。

【参考記事】ドイツ世論は極右になびかない?

ところが1月末に経済相・副首相であったガブリエルSPD党首が自らは連邦議会選挙にSPDの首相候補として立候補しないこと、欧州議会議長の任期を終えたばかりのシュルツを首相候補として推薦すること表明した。この決断がSPDの執行部で承認されると、SPDに対する世論の支持は急上昇したのである。

新首相候補シュルツとは何者か?

シュルツはドイツ社会では名の知られた政治家ではあるが、決して以前から注目されていた政治家ではなかった。それはドイツ国内での政治経験は若い頃に西部の小さな地方都市の市議会議員、市長は務めたが、ドイツ政界で活躍する標準コースである州議会議員や連邦議会議員は務めたことがなかったためである。

1994年からEUの議会である欧州議会のドイツ選出議員となったが、欧州議会議員としての活動はドイツ国内から注目されることはほとんどなかった。欧州議会ではドイツ選出SPD議員団長を務めたりしていたが、一般市民がシュルツの名前を知ったのは、当時のベルルスコーニ伊首相が大手メディアを所有し、政治とメディアの独立の問題を批判したのに対して、ベルルスコーニ伊首相がシュルツ議員にはナチの強制収容所の監視役がお似合いだと軽口をたたいたことが話題となった事件が初めてであったと言っても良いであろう。

プロフィール

森井裕一

東京大学大学院総合文化研究科教授。群馬県生まれ。琉球大学講師、筑波大学講師などを経て2000年に東京大学大学院総合文化研究科助教授、2007年准教授。2015年から教授。専門はドイツ政治、EUの政治、国際政治学。主著に、『現代ドイツの外交と政治』(信山社、2008年)、『ドイツの歴史を知るための50章』(編著、明石書店、2016年)『ヨーロッパの政治経済・入門』(編著、有斐閣、2012年)『地域統合とグローバル秩序-ヨーロッパと日本・アジア』(編著、信山社、2010年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story