コラム

横断歩道上でいつまでも歩行者が犠牲になる日本 運送業界に変革の狼煙

2022年03月30日(水)20時45分
横断歩道

(写真はイメージです) PinkBadger-iStock

<道路交通法第38条(横断歩道での歩行者優先)を守るためのプロジェクトが、トラックやタクシーなど事業用自動車業界で話題に。「自動車優先」の体質を内側から変えていく>

なぜ日本のドライバーは他の先進国と比べて歩行者を優先する意識が低いのだろうか。その理由の一つに、交通ルールに対する考え方が異なることが挙げられる。自動車を優先する雰囲気を変え、歩行者に道を譲る社会にしたいというプロジェクトが、トラックやタクシー事業者の間で活発化している。

歩行者関連の事故の割合が圧倒的

警察庁交通局によると、交通事故件数や死亡・重傷者数は年々減少しているが、歩行者事故の割合は2021年の時点で依然として高い状況にある。さらに欧米と比較すると、自動車運転中の事故の割合が他の先進国(米英仏独)と比べて低い代わりに、歩行者関連の事故の割合は圧倒的に高い。

kusuda220330_figure1.jpg

しかも、歩行者の事故は「対車両」が多く、残念なことに横断歩道上で起きている。左右の確認を怠って飛び出したなど、歩行者に原因があるものも少なくない。しかし、車両と歩行者の死亡事故の原因は「横断中の歩行者進路妨害違反」「交差点安全進行義務違反」「前方不注意」「安全不確認違反」が約9割を占めている。

kusuda220330_figure2.jpg

信号のない横断歩道で一時停止するのは2割だけ

2020年8月12日から26日に、JAF(日本自動車連盟)が全国の信号機の設置されていない横断歩道で、自家用自動車と自家用トラックを対象に、歩行者が横断歩道を渡ろうとした時に一時停止するかどうかを調査した。その結果、一時停止をしたのは21.3%にとどまった。このJAFの調査は社会に大きなインパクトを与えるもので、日本の自動車社会を考え直すきっかけとなった。

あいち交通死をなくすボランティア団体「にじいろ会」代表の坂田栄子さんは、長女の紗愛理さんを交通事故で20歳の時に亡くした。2019年6月4日、知立市国道23号線上重原インター出口の交差点で、青信号の横断歩道を自転車で渡っていたところ、国道155号線豊田方面から左折してきた10トンの大型トラックに押し倒されて下敷きになった。

交通事故で子供を失った遺族は加害者と対立するケースが多い中、坂田さんは紗愛理さんが手芸用に使っていた色とりどりのクラフトテープを使ってストラップを作り、交通安全の願いを込めて警察署や自動車教習所に配布する活動を行っている。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国の25年石炭需要、8年ぶり減少へ 来年は増加も

ワールド

GDP下方修正、景気の緩やかな回復という基調に変化

ビジネス

NTT、本社を日比谷に移転へ 2031年予定

ワールド

アングル:戦死・国外流出・出生数減、ウクライナ復興
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story