コラム

「脱化石燃料」は大きく後退...いま必要なこととは? 元国連大使・星野俊也氏が見たCOP27

2022年11月26日(土)16時41分

──エジプトのアブデルファタハ・シシ大統領はCOP27の演説で「われわれはロシアとウクライナの戦争のために苦しんでいる。全世界が苦しんでいる。この戦争を終わらせよう」と呼びかけました。

星野 世界が温暖化対策で一致団結して取り組まなければならない時期に領土獲得戦争など時代錯誤も甚だしく、一刻も早い戦闘の終結が望まれますが、ロシアもウクライナも、自分たちのマックスな期待を実現させようと思っている限りにおいては、戦争は残念ながら長引くということになります。

言い分の如何にかかわらず、戦端を開いたロシアは軍事作戦を直ちに止め、撤退しなければなりません。第三者によるより積極的な仲介努力も求められます。

ところで今回のロシアのウクライナ侵略を受けて、世界の分断が進み、さまざまな分野でサプライチェーンが寸断されると、先進国、途上国を問わず自分たちが国際的な相互依存の中で暮らしていることに気づかされました。コロナ禍でも機械部品から完成品、さらにはマスクや感染防護具などのサプライチェーンを中国に依存し過ぎていました。

中国やロシアといった強権主義的な国への過度の依存は、高いカントリーリスクを抱えていることは忘れてはなりません。国際的な合意的分業は理にかなっているところもあり、対外依存にはもちろん仕方がない部分もありますが、自活できる部分に関してはレジリエントなかたちにしておく必要は教訓として学ばなければなりません。

これは特に日本に当てはまります。輸送も含めたスコープ3(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出以外の間接排出)の脱炭素化を進める上でも今後、検討すべき重要な分野です。

──今回のエネルギー危機にもかかわらず気候変動の対策はさらに前に進んでいるのでしょうか。

星野 やはり短期的には後退は否めない状況です。SDGsは2015年に目標を定めて、最初の5年間ぐらいは地道に成果を積み上げることができました。コロナ禍で4年分ぐらい後退したと言われています。それはとても残念なことです。しかしそれだけ進捗していたわけです。

ロシア軍のウクライナ侵攻によってさらに後退せざるを得ない部分も出てきましたが、ここで諦める話ではありません。逆境だからこそ、さらに努力を重ねる必要があります。

──イタリアでネオファシスト党出身の女性首相が誕生し、英国では債務危機が原因で政権がわずか50日で崩壊しました。米国でもジョー・バイデン米大統領は下院選で惜敗を余儀なくされました。

星野 気候変動対策は大きな転換を伴います。いつの時代にも抵抗勢力や変化に消極的な勢力はいるわけです。この転換は世界にとっても人類にとっても必要です。それを新しいビジネスチャンスとしてクリエイティブに取り組んでいかないといけません。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story