コラム

「脱化石燃料」は大きく後退...いま必要なこととは? 元国連大使・星野俊也氏が見たCOP27

2022年11月26日(土)16時41分

──今回のCOP27はロシア軍のウクライナ侵攻でエネルギー、食料危機が起き、インフレが世界をのみ込む中で行われました。化石燃料の石油・天然ガスに戻るのか、それとも再生可能エネルギーへの転換を進めるのか「分岐点だ」という声が聞かれます。

星野 やみくもに不安や恐怖をあおるわけではないですが、今、必要な行動を取らないと遠からぬ将来に地球は限界を超え、もはや不可逆的に地球が持続不能な方向に行きかねない瀬戸際にあるという意味で、私はいまが分岐点だと思っていますが、まだそうした危機案は十分に共有されていません。

温暖化対策や脱炭素化も2050年から2070年といった時間軸で語られるとかなり先の話のように思え、取り組みも先延ばしにされがちでした。ですが、ロシア軍のウクライナ侵攻によってエネルギーや食料が不足し、結果的にロシアにカードを握らせるような状況です。

西側がロシアに経済制裁をすると、かえって自分の首が絞められる逆説を受けて、やはり私たちはやるべきことはもっと早くからやっておくべきだったと気づかされたのではないでしょうか。

ロシアの影響力の源泉は、化石エネルギーと核兵器と国連安全保障理事会での拒否権で、さらに国内の情報統制にありますが、これらはどれも過去の遺物です。本来は解消されていなければならないものばかりです。

2015年に国連で合意された「持続可能な開発目標(SDGs)は、私たちがいま経済・社会・平和のシステムの転換点にあることを前提に2030年までにやるべきことを提示したわけですが、進捗は遅く、コロナ禍で後退もし、すでに7年が経過しています。

今回のロシアの軍事作戦でさらに客観状況は厳しくなりましたが、今が「やはり分岐点なんだ」との認識を新たにし、大胆にシステム転換を進めるべきです。それは、ロシアに権力基盤を失わせるという意味でも、戦争終結につながります。

──原油価格が1バレル=90ドル前後で高止まりしていますね。それに連動して天然ガス価格も高くなっています。

星野 どこかで原油価格をコントロールしたいという動きがあるように思います。ロシアがそうかもしれませんし、中東の産油国もそうかもしれません。今回の危機にある程度、便乗してエネルギー価格の高止まりを求めるなどの思惑がないとは言えないと思います。

──COP27では化石燃料ロビイスト636人が登録され、昨年のCOP26より25%以上も増えました。中東諸国はロシア軍のウクライナ侵攻に便乗して原油や天然ガスをできるだけ長く売ることができるよう時間稼ぎをしているのでしょうか。

星野 そこまで断言できるかどうかは分かりませんが、確かに脱炭素化に向けた脱化石燃料の動きが大きく後退していることは事実です。本来は再生可能エネルギーへの転換を進めなければならないと分かっていても、エネルギー危機で時間的な余裕ができたことに便乗したいという思惑を抱いている国はあります。

ですが、それは時代に逆行するものですし、温暖化現象は人間の都合で待ってくれません。重要な移行期の今、短期的な利益に目を奪われ、潜在する巨大なビジネスチャンス、革新的なイノベーションや制度設計がくれぐれも後回しにされることのないよう、願いたいものです。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の

ビジネス

アマゾン、豪データセンターに5年間で130億ドル投

ワールド

イラン世界最大級ガス田で一部生産停止、イスラエル攻
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story