コラム

「脱化石燃料」は大きく後退...いま必要なこととは? 元国連大使・星野俊也氏が見たCOP27

2022年11月26日(土)16時41分
星野俊也・大阪大学大学院教授

元国連大使の星野俊也・大阪大学大学院教授(筆者撮影)

<コロナとウクライナ侵攻で逆戻りを余儀なくされている気候変動対策と、今回のCOP27を星野俊也・大阪大学大学院教授はどう評するのか>

[シャルム・エル・シェイク(エジプト)発]紅海に面した世界有数の海洋リゾート、シャルム・エル・シェイクで開かれた国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)は2日延長し20日、気候変動の「損失と損害」を支援する基金設立で歴史的に合意して閉幕した。

しかし温室効果ガス排出量の削減目標引き上げや化石燃料の段階的削減について大きな進展はなかった。米ニューヨークの国連本部で日本政府代表部大使・次席常駐代表(2017~2020年)を務めた星野俊也・大阪大学大学院教授(国際公共政策)・ESGインテグレーション研究教育センターディレクターはCOP27をどう見たのか。

星野氏は現地で筆者のインタビューに応じ、閉幕後、補足してもらった。

──これまで先進国側が無制限の責任を負わされかねないと慎重な姿勢を見せてきた気候変動による「損失と損害」について実に30年越しの大きな進展が見られました。国際環境NGOも歓迎しました。 どう評価されますか。

星野俊也教授(以下、星野) 「損失と損害」は特に途上国にとってはリアルな課題ですし、持続可能な未来への公正な移行の観点からも見過ごせない論点ですから、今回のCOPで議題化され、詳細は次回に持ち越されたとしても、会期を延長してまで基金設立に合意できたことは一定の意義があると思います。

アフリカ開催で、新興国のエジプトが議長だったからこそ、先進国も落としどころを探り、妥協が成立したのだと思います。ただ、資金は「緩和」にも「適応」にも必要です。基金の乱立は、相互に関連した問題の統合的な取り組みを難しくしかねません。

「損失や損害」の手当は過去の被害からの復興であるとすると、その国が現在や将来の気候危機への抗たん性やレジリエンス(筆者注、回復力、復元力のこと)を高める基盤整備と切り離すことはできず、それは「適応」や「緩和」の努力ともつながります。

また、基金を通した支援が推奨されても、日本のように二国間で迅速に被災国の人道・復興支援を直接提供できたり、すでに現地の国連機関などの活動の強化を進めたりできる国にとっては基金への拠出が唯一の国際協力でないことも理解され、評価される必要があります。

財源の予測可能性という観点から基金設置への期待はわかりますが、作るのであれば運用面で重たい官僚体質にならないガバナンスは不可欠ですし、各国からの公的資金だけに頼らない、より革新的な資金調達メカニズムも考慮されるとよいのではないでしょうか。

(筆者注)英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)によると、「緩和(温室効果ガス排出の回避と削減)」や「適応(現在および将来の気候変動の影響への適応)」によっても回避できない破壊的な影響のことを「損失と損害」という。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=

ワールド

トランプ氏、健康不安説を否定 体調悪化のうわさは「

ワールド

ウクライナ、ロシアによるザポリージャ原発占領の合法

ワールド

トランプ氏、関税巡り最高裁に迅速審理要請へ 控訴裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story