コラム

クリミア軍用空港「攻撃成功」の真相──これで「戦局」は完全に逆転した

2022年08月13日(土)13時30分

黒海艦隊司令部と同じようにドローン攻撃が行われたのか。米紙ワシントン・ポストはウクライナ政府関係者の話としてウクライナのパルチザン(非正規軍の構成員)とともに活動するウクライナの特殊部隊が背後にいたと報じている。攻撃に「神風ドローン」が使われた可能性もある。

「ミスしたように見える衝撃の痕跡がない」

ユーチューブやツイッター、フェイスブック、テレグラムなど一般に公開されているSNS上の情報やデータを収集し、分析している民間調査機関「べリングキャット」の設立者エリオット・ヒギンズ氏は連続ツイートの中で謎解きに挑戦している。「ミスしたように見える衝撃の痕跡がない。彼らは非常に正確な武器を使用したか、非常に幸運だったかのどちらかだ」

「ロシアが1日でこれだけの航空資産を失ったことは最近の記憶にない。ロシアはウクライナが(ロシアのタマン半島とクリミア半島を結ぶ)クリミア大橋で同様の攻撃を行う能力を深く憂慮しているはずだ。空港にできたクレーターの幅を測ってみたが、20~25メートルはありそうだ。かなり大きな砲弾ということだろう」

データはウソをつかないが、当局がメディアにリークする情報には「意図」というバイアスがかかっている。ゼレンスキー氏が隠したがっているのはクリミアをはじめロシアの占領地域に潜伏しているウクライナのパルチザンや特殊部隊なのか。それともプーチン氏をできるだけ刺激したくないバイデン氏への配慮なのか。

ゼレンスキー氏は今年も、クリミア解放のための「クリミア・プラットフォーム」サミットを開催すべく準備を進めている。クリミアの黒海艦隊司令部やサキ軍用空港への攻撃にはロシア軍の攻撃能力を削ぐという軍事面だけでなく、ウクライナは領土で絶対に妥協しないというウクライナの固い意志を国際社会にアピールする政治面、外交面の狙いもある。

今月8日に米国防総省が発表した第18次軍事支援の中に、核戦争へのスカレーションを恐れるバイデン氏が頑なに否定してきた最大射程300キロメートルの「エイタクムス」が含まれており、ウクライナに密かに持ち込まれていたのだろうか。もし、そうならゼレンスキー氏が箝口令を敷いたのも合点がいくというものだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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