コラム

朝日を浴びにバルコニーへ出たザワヒリは「忍者爆弾」の6つの刃に切り裂かれた

2022年08月04日(木)18時31分
ザワヒリ手配書

FBIが公開していたザワヒリの手配書 FBI/Handout via REUTERS

<アフガンからの米軍撤退で「弱さ」をさらけ出したと見られたバイデン政権だが、綿密な計画と高性能な兵器によって大きな成果を得た>

[ロンドン発]アメリカのジョー・バイデン大統領は8月1日に演説し、2001年の米中枢同時テロを副官として指揮した国際テロ組織アルカイダ最高指導者アイマン・ザワヒリ容疑者(71)を潜伏先のアフガニスタンの首都カブールで現地時間の7月31日早朝に米無人航空機(ドローン)から発射されたヘルファイア空対地ミサイル2発で殺害したと発表した。

バイデン氏の演説、国家安全保障会議(NSC)の背景説明、英大衆紙デーリー・メールの報道などからザワヒリ容疑者殺害の詳細を振り返ってみた。巨大ゴルフボールのようなアンテナ「レドーム」がずらりと並ぶメンウィズヒル英空軍基(英北東部ノース・ヨークシャー州)のスタッフを含む米英情報機関が数カ月にわたり、ザワヒリ容疑者の動向を監視していた。

「日曜日の午前6時18分。夜明けの祈りから1時間以上経ったころ、ザワヒリは太陽と新鮮な空気を楽しむため隠れ家のバルコニーに姿を現した。安全なはずの高台からカブールの朝を眺めることは潜伏生活の数少ない楽しみになっていた。しかしザワヒリは米英に雇われたイスラム原理主義勢力タリバンのスパイが何カ月も監視していたことを知らなかった」(デーリー・メール紙)

ドローン攻撃による巻き添え被害がイスラム過激派を激増させた反省から米英情報機関はドローン攻撃の際、一段と慎重になった。偵察衛星や航空機によって得られる画像や映像(イミント)、通信や電磁波、信号の傍受による情報(シギント)と、スパイによって収集される情報(ヒューミント)のクロスチェックを徹底している。

「どんなに時間がかかっても、どこに隠れていても必ず見つけ出す」

ザワヒリ容疑者が隠れ家のバルコニーに現れたことを確認したタリバンのスパイが英米情報機関に連絡してきたという。これを受け、ザワヒリ容疑者殺害作戦は実行された。デーリー・メール紙はその瞬間をこう伝える。

「数万フィートの上空を旋回する米無人機リーパーが2発のR9Xヘルファイアミサイルを発射した。攻撃目標に命中する直前にミサイルの内側から攻撃目標を細断する6本の長い刃が飛び出すことから『忍者爆弾』の異名がある。重さ45キログラムの強化金属弾頭は時速1600キロメートルで移動し、爆発ではなく、回転する刃の鈍重な力で標的を粉砕する」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story