コラム

日本に逃れたウクライナ人の声 「PCR検査は自己負担」「日本円がなければどうなったか」

2022年03月29日(火)20時00分

「ソ連崩壊後、1日ですべてが変わったわけではない」

1991年のソ連崩壊後も旅券を見せればロシアにもベラルーシにも自由に移動できた。ウォロディミルさんは「1日ですべてが変わったわけではありません。変わるのに1~2年かかりました」と振り返る。

「お金はルーブルから暫定的な貨幣に代わり、そのあと現在のフリブナになりました。90年代はウクライナもロシアやベラルーシと同じように経済は大変なことになりましたが、仕事や周りはそれほど変わりませんでした」(ウォロディミルさん)

ソ連崩壊は2人の目には下から始まったというよりは上層部の意思で決まったように見えた。崩壊後、海外にも自由に行けるようになった。ロシアもウクライナと同じように仕事や金がなく、ウクライナの人々は生活の糧を得るため「東」ではなく「西」を目指すようになった。

2013~14年のマイダン革命で、最終的にビクトル・ヤヌコビッチ大統領の政権が崩壊したことについて、ウォロディミルさんは「欧州連合(EU)との連合協定でヤヌコビッチ氏が署名を見送ったことに多くの人が『約束を守らなかった。騙された』と憤りました」と語る。

「ソ連時代でさえ人々は自由を求めた」

「ソ連時代でさえ人々は自由を求めました。ウクライナは独立したのに、再びロシアの支配下に戻ることは絶対に受け入れられません。ソ連時代のような悪夢はもう懲り懲りなのです。ヤヌコビッチ氏の治安部隊による銃撃も恐れず、みな自由を守るために戦ったのです」(ウォロディミルさん)

ヤヌコビッチ氏がロシアに逃れた直後、プーチン氏はクリミア併合を強行し、東部紛争に火を付けた。「クリミアも東部ドンバスもウクライナの領土であることに変わりありません。今は法の支配を無視してロシアや親露派が占拠しているだけです」と2人は口をそろえた。

ウクライナはロシアの一部だと考えているプーチン氏について「自分勝手な歴史を吹聴しているだけだ」と一蹴する。「プーチン氏は大統領になってから権力も時間も原油・天然ガスも十分あったのに、ロシアにとって良いことは何もしていない」

「ウクライナは独立した民主主義国家であり、プーチン氏やロシアに助けなど求めていません。自国も発展させられない指導者が他国のウクライナのためになることができるとも全く思いません。米欧が支援してくれれば戦争は5月までに終わると信じています。戦争が終わればすぐキエフに戻りたい」と2人は力を込めた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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