コラム

日本に逃れたウクライナ人の声 「PCR検査は自己負担」「日本円がなければどうなったか」

2022年03月29日(火)20時00分

コロナのPCR検査代は自己負担だった

一方、自国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領については「彼には政治経験がありませんでした。失敗もしましたが、今、彼は祖国と自由を守るために非常に良くやっていると思います。勇気を示しました。彼がやっていることに敬意を表します」と言う。

出発2日後の10日に隣国のポーランドに到着した。日本在住のオレナさんが身元保証書の準備などをして、14日に90日間の短期滞在ビザが2人に認められた。1人70ドル(約8650円)の自己負担で新型コロナウイルスのPCR検査を受け、陰性だったため、17日に空路チューリッヒ経由で成田に向かった。

成田国際空港で自主隔離措置のためスマートフォン(多機能型携帯電話)にアプリをダウンロードしなければならなかった。ウォロディミルさんはスマホを持っていないため、オルハさんのスマホで2人一緒に済ませられないかと担当者に頼み込んだが、断られた。

スマホを借りる代金は日本円で支払うよう指示された。たまたま日本円を持ち合わせていたから良かったものの、持っていなかったらどうなっていたのか。ウクライナ避難民の無償宿泊施設として4カ所が広報されていたものの、迅速に対応してくれたのは不動産会社のアパマンだけだった。

「言葉は分からなくても、在ポーランド日本大使館で両親は本当によくしてもらったそうです。でもPCR検査の費用やスマホのレンタル料の負担は、両親のような戦争避難民には重たいです」と娘のオレナさんは話す。

牧歌的だったウクライナとロシアの関係

ウォロディミルさんはキエフから西へ約150キロメートルのジトミールという町に近い小さな村で生まれた。地元に小学校がなかったので隣町まで通ったという。ウォロディミルさんの父親は電気技師をしていた。

オルハさんはモスクワから東へ約3500キロメートル離れたロシアのケメロヴォ出身だ。12歳の時にウクライナに引っ越してきた。ウォロディミルさんとは同じ職場で知り合い、結婚した。日本で言う「職場結婚」だった。

「ウクライナ人の夫も大学ではロシア語で教育を受けていたし、私もウクライナ語を勉強したので、コミュニケーションは何の支障もなく取れました。私たち夫婦だけの話ではなく、みんなそんな感じでした」とオルハさんは振り返る。

「ソ連時代はロシア語を勉強していたし、テレビもロシア語だったので、ロシア語で話してもみな通じました」(オルハさん)。辺境の地や戦略的な地域を除いて、身分証明書さえ持っていればソ連内の行き来は自由に認められていた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story