コラム

英は2024年に石炭火力発電を全廃 石炭依存の日本は海外にプラント輸出も

2021年06月30日(水)18時23分
独ケルン近郊の石炭火力発電所

先進国は競って脱石炭に突き進んでいるが(写真は独ケルン近郊の石炭火力発電所) Wolfgang Rattay-REUTERS

<石炭で産業革命を起こしたイギリスが今や「脱石炭」のフロントランナーに。日本への風当たりは一段と強まりそうだ>

[ロンドン発]「2050年排出ゼロ」を目指す英政府は6月30日、24年10月に石炭火力発電を全廃すると発表した。従来の目標を1年繰り上げた。今年、英スコットランドで第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開かれるのに合わせ、「脱炭素」の手始めに「脱石炭」を主導するのが狙い。東日本大震災の福島原発事故で原発稼働率が下がり、世界の流れに逆行し"石炭依存度"を強めてしまった日本への風当たりは一段と強まりそうだ。

昨年、イギリスの電力構成における再生可能エネルギーの割合は、風力24.2%、バイオエネルギー12.6%、太陽光4.2%、水力2.2%の計43.1%。原発は16.1%で、石炭火力発電はわずか1.8%だった。石炭火力発電への依存度は12年には40%を占めていた。かつて石炭を原動力に産業革命を起こしたイギリスが今では「脱石炭」の先頭ランナーだ。

英政府は17年に25年10月までに石炭火力発電を全廃する方針を決定。ボリス・ジョンソン首相は20年に目標を1年繰り上げる意向を示していた。地球温暖化対策で石炭の国内需要も減り、産業への影響は少ないと判断、電力部門の脱炭素化を加速させることを正式に決めた。英政府は今年初め、海外での化石燃料エネルギー部門への公的支援を終了している。

G7も「石炭火力発電が温室効果ガス排出の唯一、最大の原因」

3月には英石炭火力発電所が4年先の電力供給を確保するための「容量市場オークション」に参加しなかった。初めての出来事だった。24年度のピーク時の電力需要も石炭火力発電なしでまかなえるということだ。COP26の議長を務めるアロク・シャーマ氏も「次の10年が地球を守れるかどうかの分岐点だ。最も有効な方法は石炭依存を終わらせることだ」と話す。

脱石炭連盟(PPCA)欧州円卓会議に出席しているアン=マリー・トレビリアン英エネルギー・クリーン成長・気候変動担当閣外相は「石炭は200年前に産業革命を推進したが、今こそ、汚れた燃料をエネルギーシステムから完全に排除するため抜本的な行動を起こす時だ。電力の脱炭素化に真剣に取り組んでいることを世界中に伝えたい」と意気込んだ。

英南西部コーンウォールで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳コミュニケも「30年までに温室効果ガスの排出を半分に抑え、遅くとも50年までの実質排出ゼロにコミットする」と宣言。「石炭火力発電が温室効果ガス排出の唯一、最大の原因」と明記した。しかしコミュニケからは苦しい調整の跡がうかがえる。

「石炭火力発電への国際的な投資をすぐ止めなければならない」「政府による新規の国際的な直接支援の今年末までの終了に今コミットする」とうたったものの、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電」と条件を付けた。「排出削減対策が講じられていない」が何を意味するのか解釈の余地を残しているところが味噌だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

ダライ・ラマ「一介の仏教僧」として使命に注力、90

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強

ワールド

英外相がシリア訪問、人道援助や復興へ9450万ポン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story