コラム

日本の学校給食システムで世界の子供たちを「食料砂漠」から救え

2019年10月16日(水)14時25分

日本の子供の太り過ぎ割合が先進国一低いのは学校給食のおかげ Toru Hanai-REUTERS

[ロンドン発]かつて暗黒大陸と呼ばれたアフリカを含む世界の低所得国や低・中所得国で太り過ぎの子供が急増していることが15日、国際連合児童基金(ユニセフ)の報告書『子供、食料、栄養摂取』で浮き彫りになった。

KimuraMasato191016_3.jpg

上のグラフでは、低所得国や低・中所得国で太り過ぎの子供が10%以上になった国が急増していることが一目瞭然だ。

(注)世界銀行によると、高所得国は人口1人当りの国民総所得(GNI)が1万2376ドル以上、高・中所得国が3996~1万2375ドル、低・中所得国が1025~3995ドル、低所得国は1025ドル以下。

2000年から18年にかけ5歳未満の太り過ぎの割合は世界全体で5.5%から5.9%に増え、5~19歳では10.3%から18.4%に跳ね上がっている。

太り過ぎの5歳未満の子供の数は4010万人にのぼり、全体の5.9%。地域別に見ると――。

東欧・中央アジア14.9%(7人に1人が太り過ぎ)
中東・北アフリカ11.2%
北米8.8%
南米・カリブ海諸国7.5%
東アジア・太平洋6.3%などの順だ。

経済協力開発機構(OECD)や欧州連合(EU)加盟国の5~19歳で1990~2016年にかけての太り過ぎの増加率を見ると、スロベニア168.8%、クロアチア160%、スロバキア157%、ポーランド131.1%。今年30周年のベルリンの壁崩壊が旧東欧諸国の食卓を豊かにしたのは間違いない。

5人に1人が太り過ぎ

グローバル化最大の勝者となった中国でも1985年に発育阻害(年齢に対する身長で評価され、長期にわたる慢性的な栄養状態を示す指標)は16%だったのに2014年には2%まで改善する一方で、太り過ぎや肥満は1%から20%に跳ね上がった。

2015年に肥満の子供(2~9歳)は1500万人に達し、中国は「肥満児大国」の1つになった。太り過ぎと肥満の子供を合わせると1億2000万人(2012年、中国疾病管理予防センター)という統計さえある。

急激な経済成長と都市化、技術の進歩が中国のライフスタイルを一変し、食生活が豊かになる一方で、運動不足の子供たちが増えた。中国ではふくよかな子供は豊かさの象徴とみなされる文化があり、太り過ぎに寛大だという。

ユニセフの報告書によると、5歳未満の子供の少なくとも3人に1人が栄養不足の発育阻害や消耗症(身長に対する体重で短期的・急性的な栄養状態の評価に用いられる)か、太り過ぎ。2人に1人が「隠れた空腹(ビタミンや他の必須栄養素の不足)」に苦しんでいる。

発育障害や消耗症に苦しむ5歳未満の子供は世界で約2億人。隠れた空腹に苛まれる子供は少なくとも3億4000万人。太り過ぎの子供(5〜19歳)の割合は2000年から16年にかけ10%から20%に増加した。

鉄欠乏は子供の学習能力を低下させ、鉄欠乏性貧血は出産中または出産直後の女性の死亡リスクを高める。また、子供の太り過ぎは2型糖尿病の早期発症、肥満という烙印、うつ病につながる恐れがある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story