コラム

北京五輪が韓国与党の大ブレーキに?韓国大統領選まであと1カ月

2022年02月10日(木)22時02分

今回の大統領選の政局の最大の懸案である不動産問題については、李候補は公共主導で供給を大きく拡大すると主張したことに対して、尹候補は貸出に関する規制を緩和すると共に民間企業を中心に供給を拡大すると言及した。

両候補は、文政権の不動産政策の失敗を認めながら、供給を増やしてソウルと大都市を中心に急騰したマンションの価格を安定化させるというところでは意見が一致したが、供給の主体については「公共」と「民間」に明確に分かれた。

外交安保については、李候補は「国益中心の実用外交」を、尹候補は「アメリカ・日本優先主義」を強調した。李候補はテレビ討論会中に終始一貫「国益中心の実用外交」を主張しながら、文政権の「三不政策」を継承する意思を示した。

文政権の「三不政策」とは、THAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)の追加配備、米日韓3カ国の軍事同盟、アメリカのミサイル防衛システムへの参加に反対という中国を配慮した対中国外交政策である、

李候補はテレビ討論会で、文政権の「三不政策」について、「適正だと思う」とした上で、その理由を「中国との経済協力関係のためだ」と説明した。

一方、尹候補は、大統領になるとアメリカ・日本、中国、北朝鮮の順に首脳会談を行うと言い切った。文政権が行った親中・親北路線を捨てて、アメリカと日本との関係を回復することに優先するという立場を明らかにした。

テレビ討論会を含めて今までの両候補の発言から推測すると、今後李候補は「親中・親北」を、尹候補は「親米・親日」を中心に外交安保政策を行う可能性が高い。

このような状況の中で、現在中国の北京で開かれている冬季オリンピックが親中色の強い李候補の支持率にマイナスの影響を与えるのではないかと李候補陣営は懸念している。

2月4日に開かれた開幕式で、韓国の民族衣装である韓服(ハンボク)を着た女性が、中国の56の少数民族の朝鮮族代表とし出演したことを巡り、韓国では「中国が韓服を中国のものだと主張している」と批判が高まっているからだ。

さらに、ショートトラック競技では釈然としない判定が相次ぎ、金メダルが期待されていた韓国人選手が失格になり、韓国社会における反中感情を助長する原因を提供した。韓国社会の反中情緒は今後も続くことが予想されており、それが選挙にどのような影響を与えるのかが注目されている。

李候補と尹候補による「2強」の構図が鮮明になっている中で、李氏と尹氏の支持率は誤差の範囲内で拮抗している。今後、テレビ討論会などで国民をどのぐらい納得させるかにより選挙の結果は大きく変わると考えられる。韓国与野党4人の大統領候補が参加する2回目のテレビ討論会は2月11日に行われる予定である。2回目の討論会ではどの候補が勝機を掴むだろうか。テレビ討論会の内容とその結果に注目したい。

※韓国の第20第大統領選挙の主なスケジュール

・2022年2月3日:韓国与野党4人の大統領候補が参加する1回目のテレビ討論会

・2022年2月11日:韓国与野党4人の大統領候補が参加する2回目のテレビ討論会

・2022年2月13~14日:候補者の立候補届け出

・2022年2月15日:選挙運動スタート

・2022年3月4~5日:事前投票

・2022年3月9日:第20第大統領選挙の投票日

・2022年3月10日:選挙結果発表

・2022年5月10日:新大統領就任

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story