コラム

ポストコロナの韓国版ニューディールは成功するか?

2021年01月04日(月)16時30分

文大統領は昨年7月、ポストコロナ時代の世界経済をリードするための発展戦略「韓国版ニューディール」を発表した Jung Yeon-je/REUTERS

<首都圏と非首都圏の格差をなくすという文大統領のビジョンは美しいが、いまだ一つも実現していない>

*このコラムの内容は筆者個人の見解で、所属する組織とは関係ありません。

韓国と北朝鮮に分かれている朝鮮半島がさらに二つに分かれつつある。韓国のソウル特別市、仁川広域市、京畿道を中心とする首都圏とそれ以外の非首都圏の間の格差が広がっているためだ。

首都圏の面積は韓国全体面積の11.8%に過ぎないものの、2019年時点での首都圏の人口は全体の半分(50.0002%)を超えた。首都圏がGRDP(地域内総生産)や活動企業数に占める割合もそれぞれ51.8%と52.5%で非首都圏を上回っている。

■韓国の首都圏と非首都圏
kimmap210104.jpg
筆写作成

また、造船、自動車、機械産業の輸出減少により、今まで韓国経済の中心的役割を果たしてきたPK(釜山広域市、蔚山広域市、慶尚南道)経済が揺れており、首都圏との差が広がっている。首都圏と非首都圏の格差がこのまま拡大しすぎると、近い将来に衰退し消滅する自治体が出る可能性もある。

■首都圏と非首都圏の人口割合
kimchart210103.png
注)首都圏は、ソウル特別市、仁川広域市、京畿道、非首都圏はそれ以外の地域
出所)統計庁(2020)「最近20年間の首都圏の人口動向と今後の見通し」より筆者作成

ポストコロナのKニューディール

韓国政府は2020年7月14日、新型コロナウイルスの感染拡大による危機を乗り越え、経済・社会構造の変化に対応するために、新しい経済発展戦略「韓国版ニューディール総合計画(K・New Deal)」を発表した。韓国版ニューディールは2025年までに総額160兆ウォンを投資する巨大プロジェクトで、雇用を創出し、所得格差を解消する「社会安全網ニューディール」に基づき、デジタルインフラやビッグデータなどに関する産業を育成する「デジタルニューディール」と、気候変動に対応し、環境にやさしい低炭素社会を目指す「グリーンニューディール」が推進される予定である。

さらに、2020年10月13日に開催された第2次韓国版ニューディール会議では、上述した「韓国版ニューディール」の三つ(社会安全網、デジタル、グリーンニューディール)の柱に「地域均衡ニューディール」を加えることを明らかにした。文在寅大統領は、地域均衡ニューディールは韓国版ニューディールの基本精神かつ国家の均衡発展の中心であり、国家発展の軸を地域中心に転換する必要があると主張しながら、地域均衡ニューディールの重要性を呼びかけた。

地域均衡ニューディールとは、地域を新しく(New)、均衡的に(Balanced)発展させるという約束(Deal)という意味で、首都圏と非首都圏の間の地域格差を解消するための政策である。韓国政府は、韓国版ニューディール事業の総投資額の47%に当たる約75.3兆ウォンを地域均衡事業に投資する予定だ。このように、韓国政府は地域で韓国版ニューディールを実現することにより地域経済の活性化、雇用創出、地域住民の生活水準向上の効果が発生すると期待している。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、日本渡航に再警告 「侮辱や暴行で複数の負傷報

ワールド

米ロ高官のウ和平案協議の内容漏えいか、ロシア「交渉

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 低

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story