コラム

なぜテレワークは日本で普及しなかったのか?──経済、働き方、消費への影響と今後の課題

2020年07月13日(月)12時55分

緊急事態宣言が解除されると、通勤ラッシュに逆戻り(写真は4月、東京都心の通勤客) Issei Kato-REUTERS

<緊急事態宣言でテレワークに弾みがついたが、日本の実施率は依然として低い。日本企業がテレワークを導入する上での課題と、導入がもたらす経済的恩恵は>

1. テレワークや在宅勤務の現状

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために政府により緊急事態宣言が発令されて以降日本企業にテレワークが少しずつ導入されはじめている。新型コロナウイルスが発生する前にも政府によりテレワークの実施は推奨されたものの、実施率は低い水準に止まっていた。 

テレワークは「離れた場所」という意味の「tele」と働くという意味の「work」を組み合わせた言葉で、総務省は「ICTを活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」として定義している。日本ではテレワークと在宅勤務がほぼ同じ意味で使われているものの、厳密に区分すると在宅勤務はテレワークの一つだと言える。つまり、テレワークは、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイルワークに区分することができる。

調査別テレワーク及び在宅勤務の導入率・実施率
Kim200713_re.jpg

パーソル総合研究所(2020)「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査:第二回調査」(調査対象: 全国の就業者 20~59歳男女、勤務先従業員人数10人以上) 
楽天インサイト株式会社(2020)「在宅勤務に関する調査」(調査対象: 楽天インサイトに登録しているモニター(約220万人)の中から、全国の20代から60代の男女のうち、「パート・アルバイト、自由業・フリーランスを除く有職者」) 


総務省の調査結果によると、日本企業におけるテレワークの導入率は2017年の13.9%から2018年には19.1%へと5.2ポイントも上昇した。また、パーソル総合研究所の調査結果によると、正社員のテレワーク実施率は2020年3月の13.2%から、緊急事態宣言を発令した4月以降は27.9%へと2倍以上も上昇した。一方、楽天インサイト株式会社の調査では、回答者の34.3%が「勤務先で在宅勤務の制度が導入されている」と答えた。緊急事態宣言以降、テレワーク及び在宅勤務の実施率が大きく上昇していることが分かる。

2. なぜ今までテレワークは普及しなかったのか?

上述したように、日本のテレワーク実施率は、過去に比べて上昇しているものの、いぜんとして多くの労働者がオフィス勤務を中心に業務を進めている状況である。欧米と比較して、なぜ日本のテレワーク普及率は今まで低かったのだろうか?その理由について考えてみた。

1)メンバーシップ型雇用が主流

まず、欧米諸国ではジョブ型の雇用制度を実施している会社が多いことに比べて、日本の場合はメンバーシップ型の雇用制度を実施している会社が多く、会社に対する帰属意識が欧米諸国に比べて強い点が挙げられる。ジョブ型雇用が職務を明確にした上で最適な人材を配置することに対して、メンバーシップ型雇用は職務を限定せず広く人材を採用し、OJTや社内研修で教育を行い、職務に必要な知識と経験を積ませるのが特徴である。

つまり、ある特定の職務が担当できる人を採用するのではなく、採用した後に職場内の多様な職務を担当させる。入社と同時に組織のメンバーとして扱われ、担当していた業務がなくなっても配置転換され、定年まで雇用が保障される。その代わりにサービス残業の発生問題や、転勤や配置転換などの業務命令に従わざるを得ないケースが多い。また、業務を一人で担当せず、チームなどのグループで担当するため、メンバー同士の頻繁なコミュニケーションを必要とする。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イタリア、中銀の独立性に影響なしとECBに説明へ 

ワールド

ジャカルタの7階建てビルで火災、20人死亡 日系企

ワールド

韓国国民年金、新たなドル調達手段を検討 ドル建て債

ビジネス

台湾輸出、11月は15年半ぶりの伸び AI・半導体
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story