コラム

「国産旅客機に再挑戦」も、このままでは今回も「失敗」が目に見えている理由...問題は技術ではない

2024年04月11日(木)11時40分
三菱重工業がジェット旅客機の開発から撤退

KIM KYUNG-HOON–REUTERS

<三菱重工の撤退を受けて新たな国産航空機戦略を経産省が提示したが、これまでの失敗の原因となった課題はクリアできるのか>

三菱重工業がジェット旅客機の開発から撤退したことを受けて、日本政府は新たな国産航空機戦略を取りまとめることになった。複数社で取り組み、政府が全面的に支援するという内容だが、早くも失敗するリスクが高いとの指摘が出ている。

現代の航空機産業は完全にコモディティ化しており、どの国が製造しても同じような機体になる。分業も究極的レベルまで進んでおり、エンジン、機体の制御システム、電源・空調、翼など主要部品を製造するメーカーは特定企業による寡占状態となっている。

国産航空機といっても、ほとんどの部品は外国製にならざるを得ないのが現実であり、これはボーイングを擁するアメリカにも同じことが当てはまる。つまり純粋な意味での国産航空機というものはもはや存在しないと思ってよい。

こうした航空機産業の実情を考えると、資金さえ投じればどの企業でも機体を製造することは可能であり、ジェット旅客機分野では新規参入だった三菱重工にとっても、製造そのものに躓くということはあり得なかった。同社が失敗したのは、アメリカの型式証明が取れなかったという手続き上のミスに加え、証明が取れたとしても採算が合わないというビジネス上の問題だった。

米ボーイングと欧州エアバスの2大メーカーがやっていけるのは、大型機に注力し圧倒的なシェアと生産量で何とか利益を捻出しているからであり、逆に言えば、この2社がギリギリで経営している以上、新規参入するのは極めて難しい。小型機となれば利益の確保はさらに難しくなるだろう。

このままでは「4度目の失敗」となるのは必至

実は国産航空機の失敗は今回が初めてではなく、3度目。いずれも採算性もしくは型式証明が失敗の原因であり、技術力不足ではない。

この2つの課題をクリアしないまま、オールジャパンで取り組んだところで4度目の失敗となるのは目に見えている。経済産業省は2035年までに量産化のメドを付けるとしているが、機体を飛ばすことはできても採算性の問題をクリアできる保証はどこにもない。

日本経済あるいは政府の財政は貧困化の一途をたどっており、多数の国家プロジェクトに湯水のように資金を投じる余裕はもはや存在しない。

航空機も日本で製造できたほうがベターであることは間違いないが、ITなどこのまま産業の衰退が進めば国家にとって致命的な影響を及ぼす業界が存在している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story