コラム

日本企業は「人材」に投資しなさすぎ...これでは経済成長できなくて当然だ

2022年03月15日(火)18時15分
多様な人材イメージ

ILLUSTRATION BY SMARTBOY10/ISTOCK

<岸田政権が企業の人的資本に関する開示指針の作成に乗り出したが、諸外国に比べて日本企業はこの分野で著しく遅れている>

政府が企業の人的資本に関する開示指針の作成に乗り出している。日本企業は人材投資水準が諸外国と比べて著しく低く、これが低成長の原因の1つとなっている。政府が指針を作成しなければならないという状況自体が問題ではあるが、少なくとも指針が策定されれば、投資の活性化にはつながるだろう。

日本企業における人材投資水準(対GDP比)はアメリカの20分の1、ドイツの12分の1となっており、しかも1990年代以降、投資金額を毎年減らし続けている。日本は過去30年間ほぼゼロ成長だったことに加え、GDPに対する人材投資水準を低下させており、諸外国との差は拡大する一方だ。

供給側のモデルを用いた成長理論によると、ある国の経済水準を決定付けるのは資本投入と労働投入の2つである。だが同じ資本と労働を投下しても、国によって成長率は異なっており、モデル上、両者の差分はTFP(全要素生産性)の違いとして処理される。

つまり生産性の違いによって成長率に大きな差が生じるという話であり、生産性の違いが何に由来しているのか決定付けるのは容易ではない。だが、人材投資水準が重要項目である可能性は高く、実際、成人教育の参加率と労働生産性にはプラスの相関が見られる。

こうした状況を受けて岸田政権は、人的資本を含む企業の非財務上情報の開示を充実させる検討を行っており、夏にも開示指針を作成したい意向である。

「暗黙知」から「形式知」へ

具体的には、欧米の先行事例などを参考にしながら、社内外での社員教育、多様性、採用方針、労働慣行などの項目が検討されている。

国内では一連の動きに対して、日本企業は現場での社員教育(いわゆるOJT)を重視しているので、形式的な項目を用いた比較検討は適切ではないとの意見も聞かれる。確かに、こうした指針が活用された場合、形式的にその基準に合わせた企業が過剰に評価されてしまう可能性は否定できない。

だが、それが問題となるのは、一通りの人材投資を達成した組織の話であり、残念ながら日本企業の多くはその前段階にすら至っていない。また近年、重視されているのは、同じ組織や文化の中でしか共有されない「暗黙知」ではなく、むしろ外部に対して明確に説明可能な「形式知」としてのスキルである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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