コラム

補助金もCOCOAもワクチン予約も...日本の行政DXはなぜこんなに稚拙なのか

2021年06月10日(木)06時33分
サーバールームで頭を抱える男性

AKODISINGHE/ISTOCK

<政府のコロナ対応においてIT活用の失敗が続発している。問題の本質は技術力でも国民の反発でもない>

各種助成金に関する一連のトラブルや、接触確認アプリCOCOAの不具合、ワクチン大規模接種予約システムの不備など、コロナ危機をきっかけに、日本政府の稚拙なIT戦略が次々と明るみに出ている。日本がIT後進国になっていることはようやく一般にも認識され始めてきたが、なぜそうなったのかについての本質的な議論は少ない。

一般的にIT活用がうまくいかないという話はテクノロジーの問題と認識されることが多いが、技術力そのものはあまり重要なテーマではない。ITというのはアメリカ主導の標準化が最も進んだ業界であり、どの国がシステムをつくっても大きな差は生じにくい。意外に思うかもしれないが、日本でIT活用が進んでいない最大の理由は、紙の時代からデータ管理がずさんだったからである。

ソフトウエア工学上、システムを開発するに当たっては、業務の流れに着目して仕様を定める「プロセス中心」の設計技法と、取り扱うデータの構造に着目して仕様を定める「データ中心」の設計技法に大別される。単純なシステムの場合、業務の流れをそのままシステム化すればよいが、大量で複雑なデータを扱うシステムの場合、データ中心の設計技法を用いなければシステムはうまく機能しない。

公文書の破棄に統計の改ざん......

だが、データというのは昔から存在しているものであり、データを整理して構造化するという作業は、紙の時代に行われてきた管理手法から大きな影響を受ける。欧米各国は昔から徹底した文書主義であり、あらゆる業務が文書と数字で管理されてきた。

一方、日本は「あうんの呼吸」という言葉からも分かるように、文書主義とは程遠い状況だ(日本ではいまだに公文書の破棄や統計の改ざん、議事録の未作成など、先進国としてはあり得ない事態が発生する。筆者は職業柄、政府組織の国際比較を行うことがよくあるが、正直、ため息が出ることも多い)。

紙の時代にずさんに管理されていたデータは、デジタル化しても同じことであり、そうした状況下で開発されたシステムはトラブルを招きやすい。日本では個人情報や事業者情報が、各府省や自治体ごとにバラバラに管理されており、これがIT化の障壁になっていると考えられる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、反ファシスト運動「アンティファ」をテロ

ビジネス

機械受注7月は4.6%減、2カ月ぶりマイナス 基調

ワールド

ロシア軍は全戦線で前進、兵站中心地で最も激しい戦闘

ワールド

シリア、イスラエルとの安保協議「数日中」に成果も=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story