コラム

一周回って当然の結果に終わったブレグジット

2021年01月11日(月)10時15分

ブレグジット国民投票の直後、EU本部の雰囲気は「不幸な結婚」を早く終わらせよう、という感じだった。その雰囲気が一変したのは、EUの詐欺的手法ではなく、イギリスの残留派のせいだった。ブレグジットをいったん取り消して「ブレグジットの条件がはっきりした時点で」国民投票を再実施しようじゃないか、と呼び掛けるイギリス国内の勢力は、事実上、「イギリスに対してできる限りのひどい取引を持ちかけてくれ」とEUにお願いするようなものだった。厳しい条件を突き付けられれば、イギリス国民もブレグジットへの「幻想」を捨て去るだろう、というわけだ。

イギリス議会の大勢の議員はブレグジット受け入れを一貫して拒否し続けたが、これは英近代史上で最も恥ずべき行き詰まりをもたらした。僕はこの時期を思い返すのも嫌だ。まるで「ディナーパーティー政治」に感じられた。政治家が、票を入れてくれた有権者たちよりも、付き合いのある中・上流のお友達連中の都合を気にかけるような状態だ。

繰り返し意思表示したイギリス国民

幸い、イギリスの民衆はどういうわけか、辛抱強く粘り強い。僕たちは2016年の国民投票で(僅差で)ブレグジットに票を入れた。2017年の総選挙では、国民投票の結果を尊重すると明言した保守党と労働党の議員に(圧倒的な差で)票を入れた(自由民主党はあからさまに「反ブレグジット」の党として名乗りを上げ、極めて少ない票しか得られなかった)。

議員の中には選挙公約を覆し、新たな反ブレグジット党結成にくら替えした者もいた。彼らはその次の2019年12月の総選挙で皆、落とされた。彼らの新党の名前「チェンジUK」(もう存在しない政党だ)を思い出せる人は今となっては珍しいだろう。

奇妙なことに、そんな停滞気味の形勢を覆したのは、「決して実施されないと思われていたはずの」選挙だった。イギリスは2019年までにEUを離脱するはずだったが、ばかげた状況のせいで行き詰まりが続いていたため離脱する前に欧州議会議員の改選時期が訪れてしまい、イギリスは(カネのかかる)欧州議会選挙に参加する羽目になってしまった。選出されたところで、イギリス選出の欧州議員の任期はほんの数カ月しかないにもかかわらず。

当選したのは、有権者が今でもブレグジットを支持していることを訴えるためだけに単一争点で結成された政党だった。これによってテリーザ・メイは退陣せざるを得なくなった。国民投票の結果は「偶発的な抗議票」だっただけだ、イギリス国民は今やブレグジットに「後悔」しているのだ、という反ブレグジット勢力の主張は成り立たなくなった。EUはついにブレグジットの現実を見据えた交渉をせざるを得なくなった。そして、ブレグジットに本腰を入れる覚悟を決めた新政権が始まった。

これは、パーフェクトな幕引きではないかもしれない。「離婚」とは大抵そういうものだ。でも僕たちは自由貿易と友好関係で合意した。これにはイギリス含めヨーロッパの人々みんなの利益がかかっているのだから、実施不可能であるはずがない。ここまで時間がかからなければ、もっと良かったのだが。

ニューズウィーク日本版 トランプのイラン攻撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月10号(3月3日発売)は「トランプのイラン攻撃」特集。核・ミサイル開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。アメリカとイランの全面戦争は始まるのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

〔情報BOX〕米・イスラエルのイラン攻撃後の中東に

ワールド

米ウクライナ、3者協議延期・開催地変更を検討=ゼレ

ビジネス

イラン紛争、長期化ならインフレ押し上げと独連銀総裁

ワールド

イランから武器供給の要請ない=ロシア大統領府
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 9
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影…
  • 10
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 7
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story