コラム

真の男女平等を実現した英王室

2011年11月02日(水)13時45分

 10月28日にオーストラリアのパースで開かれた英連邦首脳会議(CHOGM)で、興味深いニュースがあった。英王室の改革が決定したのだ。

 こういう話を聞くと、イギリス人であることがちょっとうれしくなる。

 改革の目玉は、王位継承に関する法改正。男子優先だった王位継承法が改められ、男女にかかわらず最初に生まれた子供が優先的に王位を継承することになる。現行法では、王女が王位を継承できるのは男の兄弟がいない場合だけだ。新法では、たとえばアン王女(チャールズ皇太子の妹)は、弟たち(アンドルー王子とエドワード王子)よりも継承順位が高くなる。

 ウィリアム王子とキャサリン妃の第1子がもし女の子だったとしたら、その後に男の子が生まれようと生まれまいと、順当に行って彼女が王位に就くことになる。

 イギリスでは、これは理にかなっていて自然なことだと受け止められている。だがいくら筋の通った改革でも、行動を起こさなければ実現しない。幸い、イギリスでは与野党が一致して改革を支持していた。そして、今回の合意からも明らかなように、「国を超えた賛同」も得られたわけだ。

 エリザベス女王は、イギリスの元首であるだけにとどまらない。オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、そしてジャマイカやグレナダなどそのほかの小規模な12カ国からなる「英連邦」の女王でもある。

■日本の皇室は「もったいない」

 僕がこの改革を歓迎するのは、いたって単純な理由からだ。イギリスの歴史上、女性が王位にある時は、とてもうまくいくことが多かった。歴代イギリスの最も偉大な君主を3人あげるとすれば、エリザベス1世、ビクトリア、エリザベス2世になるのではないだろうか。

 このランキングで、ちょっとだけエリザベス2世をえこひいきしているのは認めよう。彼女は、僕が生まれてからずっと女王だった人だから(今のイギリス人の大半にとってもそうだ)、つい採点が甘くなる。だがいずれにしろ、後世の歴史家からは、長期にわたり献身的に務め上げた素晴らしい女王だったと評価されることだろう。

 ところで、チャールズ皇太子の妹であるアン王女は同年代の王室メンバーの中で、おそらく国民に最も人気がある人物だ。彼女はさまざまな慈善活動や数々の公務をこなす「最もハードワーカーな王族」としてよく知られている。今回の法改正で、アン王女がチャールズ皇太子よりも「先に生まれていたらなあ」とつぶやくイギリス人だっているかもしれない。

 日本で暮らしていた頃に不思議に思ったのは、日本の王女である内親王は、天皇になれないばかりか結婚すれば皇族ではなくなってしまうということだ。あらゆる歴史的な議論を引っ張り出して、この制度を正当化することもできるかもしれない。でも結局のところ、この決まりは単に奇妙で差別的で、もったいないものに思える。もしもイギリスの歴史に女王が存在せず、精力的に活動する王女もいなかったとしたら、大きな損失だっただろう。

 伝統は大事だ。けれども、いつまでも伝統にしがみついてばかりでは制度は衰退し、次第に存在意義を失っていくことになる。今、イギリス王室は改革に踏み切ることで、現実のイギリス社会に一歩近付くことができた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:ラグジュアリー業界、シェア獲得に向け支出

ワールド

衆院選きょう投開票、自民が終盤まで優勢 無党派層で

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本版独占試写会 60名様ご招待
  • 4
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 7
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story