
England Swings!
英国の桜、日本の桜

日本からのSNSがお花見気分であふれている。遠景やアップの桜の花、楽しげに集う人たち、美味しそうなお弁当や春の食べもの。北上する桜前線をリアルタイムでロンドンから眺められるなんて、つくづく便利な世の中になったものだ。
わたしは桜が好きで、あのふわりとした花が咲くと心が躍る。日本にいた頃は、いつ咲き始めるかとそわそわし、南や西で咲いた、見頃になったと聞くとわくわくし、咲いたら咲いたでいつ散ってしまうかとやきもきし、楽しくも落ち着かない毎日だった。わたしにとって桜は春の訪れであり、毎年の楽しみだった。
けれど数年前、英国人の夫の言葉に飛び上がるほど驚いた。桜の季節にちょうど日本に滞在していたのでお花見に誘ったら、「見たことあるから別にいい」と断られたのだ。きっと夫はさっぱりしたタイプで、わたしは桜が好きすぎるという温度差もあるのだろう。それにしても、お花見に行かない理由が「見たことがあるから」というのは日本人にはあまりない発想じゃないだろうか。これをきっかけに、桜に対する感覚は文化によっても人によっても違うらしいと意識するようになった。
日本の桜やお花見の習慣は英国でもよく知られている。日本に行きたいという友人のほとんどが、「できたらチェリーブロッサムの時期がいいんだけど、いつ?」と聞いてくるし、「日本で見た桜、きれいだったー」とうっとりしながら写真を見せてくれる人もいる。子ども向けの読みものでSakura、Hanamiという言葉を使って日本の桜が紹介されることもあり、こうして桜の知識が培われるのかと感じ入る。
もちろん桜は英国にもあって、今の時期、白やピンクの花をふわふわと咲かせている。こちらでも愛されており、春にはメディアやSNSは桜の花の記事や写真でにぎわうし、桜の名所と言われる公園も、たとえばロンドンならバタシー・パークやグリニッジ・パークなど、いくつもある。
ただ日本とは桜の様子が少し違っている。何十本、何百本という単位の桜を愛でるイメージが強い日本のお花見に比べると、こちらでは一度に見る量はもっと少なく、公園や庭に1本や2本だけ植わっていることもよくある。日本でも、たとえば枝垂れ桜の大木をじっくり鑑賞するということはあるけれど、英国では普通の桜もぽつんと、あるいはひょろりと1本で立っている。

- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile